海を創るには - マリンアクアリウムの基礎知識とナチュラルシステム
水槽をセットする
水槽の立ち上げに必要なモノが揃ったら、いざセッティングです。 順序を間違えないように作業フローを作成して取り掛かるとグッドです。
水槽のシステムにより不要な行程や作業がありますので、事前によく調べてから取り掛かりましょう。
- 水槽セットの組み立て
- 海水の下準備
- ライブサンド・ライブロックの下準備
- 水槽へ海水を充填する
- ライブサンド・ライブロックを配置する
- システムを起動する
- しばらく経過を監視する
- テストフィッシュを入れる
1. 水槽セットの組み立て
まず念入りな計画を立て水槽システムに必要なアイテムとその設置方法を確認しましょう。
およその設計図が決まったら順に組み立てていきます。
作業の大まかな手順としては、
オーバーフロースタイルの場合
- 水槽台を組み立て設置する
- 水槽を水槽台へ載せる
- 水槽台内へサンプ・各機器を設置する
- システム全体の配管を仕上げる
- その他、照明の設置など
こんな感じで良いと思います。
次に通水式を行いましょう。配管の接続ミスや水漏れのチャック、
そして配管やホースの接続に使用した接着剤等の毒抜きの意味も兼ねます。
各部の動作が確認できたら、しばらくそのまま回してみて、問題がなければ一度全ての水を抜き出しておき、
次の作業までに乾燥させておきます。
ちなみに各機器のコンセントは海水の掛からない場所へ配置し、 また潮ダレの影響を受けないよう工夫しておきましょう。 コンセントは水槽から離す、カバーをしておく、等。
注意ワード:水漏れ、電気配線、怪我
2. 海水の下準備
天然海水が用意できる場合は良いとして、人工海水の場合は生成後すぐに使用する事はなるべく避けてください。
これは人工海水の素に含まれる各成分が十分に溶解して馴染むまでに少々時間が掛かるためです。
また、天然海水・人工海水を問わず、使用前には予め良く曝気(エアレーション)し、
更に水温を25℃に合わせておきましょう。
作業の大まかな手順としては、
人工海水の場合
- 海水生成のための大きな容器を用意しておく
- 必要であれば事前に浄水器で必要量の純水を生成しておく(あるいはカルキ抜き・一昼夜寝かせたもの)
- 人工海水の素を入れ、比重が1.023になるよう必要量を生成する
- オートヒーターとエアレーションを配置しておく
- これで一日程度良く馴染ませておく
こんな感じで良いと思います。
天然海水の場合は曝気と水温合わせのみ行います。
注意ワード:撹拌、比重、曝気(エアレーション)、水温合わせ、カルキ、重金属
3. ライブサンド・ライブロックの下準備
魚水槽で砂やライブロックを入れない場合は読み飛ばしてください。
ライブロックとライブサンドも必要であれば取り寄せておきます。
そして鮮度を保つためと、有害な生物を駆除するためのキュアリングと呼ばれる作業を行います。
海水と同様、こちらも大きな容器を2つ用意しておきます。
ライブロック用は大きめのバケツでもOKですが、ライブサンド用には広めのタライが理想的です。
これはキュアリング中になるべく還元域が出来ないように配慮するためです。
容器の準備が出来たら、先に作った人工海水を少し利用するか、
あるいは即席で作った人工海水を張っておきます。勿論、曝気(エアレーション)とオートヒーターも忘れずに。
まず、届いたライブサンドをタライに開け、 薄く広げておきます。そこへ曝気とオートヒーターを配置しておきます。ライブサンドはこれだけでOKです。
続いてライブロックの方は、新聞紙を広げた上で予め悪そうなカニやウミケムシの類を駆除しておきます。
悪いカニとは比較的地味なものや毛ガニです。
しかし万一綺麗な色のサンゴガニのようなものが居たら残しておいてもOKです。
ウミケムシは白くてフサフサしたピンクの毛虫のようなゴカイですが、
ガラス繊維のチクチクを纏っているので素手では触らずピンセットで取り除きます。
その他、窪んだ穴の中にはシャコが隠れているかも知れません。
あとあと厄介なので思い切って駆除しておきましょう。
また届いた時の鮮度の確認も重要です。岩の匂いを嗅いでみて腐敗臭(硫黄臭)がしないか良く確認しましょう。
万一腐敗臭がするようなら購入元へ事情を説明し交換して貰ってください。
一通りのチェックが終わったら、こちらも容器に移し、曝気とオートヒーターを配置しておきます。
ちなみにライブサンドの代わりに乾燥砂を用いる場合がありますが、 その際はとにかく徹底的に濁りは取っておいてください。 通常ライブサンドの場合は、水中の懸濁物質(濁り)は砂に付着したバクテリアにより 速やかに漉し採られるため比較的早く透き通ってきますが、 乾燥砂の場合はそのような恩恵は一切望めません。水槽設置後も濁りが取れるまで かなり時間が掛かりますので、この段階で徹底的にきれいに洗っておくか、 あるいはライブサンドの使用をオススメします。
注意ワード:鮮度(腐敗)、曝気、水温合わせ、害虫駆除、乾燥砂の濁り
4. 水槽へ海水を充填する
ではついに水槽へ海水を張ります。 2.で生成しておいた海水もすっかり安定した頃でしょう。 この時点では水槽には何も入ってませんから、多少やんちゃに入れても構いません。 通常は予備の水中ポンプに長めのホースを繋いだものを海水容器にセットし、 そこから水槽へ送水する方法が一般的で楽チンです。 また念のためここでも水漏れ等が無いか良く確認しておきましょう。
ちなみに海水容器にセットしてあった曝気とヒーターの外し忘れにご注意ください。
注意ワード:水漏れ、ヒーター空焚き
5. ライブサンド・ライブロックを配置する
続いて3.のキュアリング済ライブロックとライブサンドを入れていきますが、 ここでは砂の直引きの例を紹介します。 プレナム等設置される場合は事前に知識を身につけておいてください。 また魚水槽で砂やライブロックを入れない場合は読み飛ばしてください。
まず先にライブサンドの方から慎重にゆっくりと入れていきます。 この時、スコップ替わりに適当な掬い皿またはザル等を使ってライブサンドを少量ずつ掬い取り、 ゆっくりと水槽の海水へ沈めていき底面で砂を空け敷き詰めていくのが一般的です。 当然海水は濁りますが、ライブサンドであれば翌日にはほぼ透き通ります。 乾燥砂の場合は3.で如何にきれいに洗ったかが問われます。 また、もしプランクトンやベントスも容易されていた場合は、この段階で砂に定着させておくと良いでしょう。 これらも上の方法で砂の上にそっとばらまいてやれば、みるみる砂に潜っていくでしょう。
砂の配置が終わったら、次にライブロックを配置していきます。 崩れないように積み上げるには少々コツと根気が必要です。 キュアリングの時点で各ライブロックの形を把握し、組み上げ順序の構想を立てておくと良いかも知れませんね。 どうしても力学的に実現困難な組み方をされる場合、支え棒やパテの使用は問題有りませんが、 岩自体に穴を開け棒を通す場合はキュアリング時点で行っておいてください。 岩の内部は嫌気的状態ですから、穴開け後しばらくは硫化水素や腐敗臭が続くためです。
ちなみにキュアリング容器にセットしてあった曝気とヒーターの外し忘れにご注意ください。
注意ワード:ライブロックの穴開け、乾燥砂の濁り、ヒーター空焚き
6. システムを起動する
さて、全ての配置が完了したらシステムの運転開始です。 循環ポンプ、水流用ポンプ、クーラー、ヒーター、プロテインスキマー、そして照明器具を通電します。 それぞれが正常に動作しているか今一度確認し、問題がなければ水槽の起動は完了です。
しばらくはこの状態で回していきますが、この状態ではまだ何も生体が入っていないため、 すぐにコケが目立ってくるかも知れません。 それに備え、複数のコケ取り貝(シッタカ)やヤドカリなどを入れておくと良いでしょう。 また可能であれば砂の撹拌のためにナマコも一匹欲しいところです。 勿論これらは水槽の立派な要因ですが、 役割としてみればシステムの一役を担う大切なオプションであると考えておいてください。 大袈裟に言えば、コケ取り貝やヤドカリは小型のものなら水量のリットル数分入れても良いくらいです。 100Lなら100匹ずつ等。 ちなみに大型のものなら数を適当に調整してください。
注意ワード:水漏れ
7. しばらく経過を監視する
特に魚水槽で強制濾過を設置したシステムの場合、バクテリアが安定するまでかなり時間が掛かります。
さらに天然由来のライブロックやライブサンドを全く使用しなかった場合、
これは途方もない立ち上げ期間が必要です。
この場合、バクテリアをゼロから湧かせる訳ですから、まずは丈夫なテストフィッシュを入れ、
敢えて給餌することで魚の糞や残飯を発生させ、
それらを分解するために発生するバクテリアを気長に待ち、
しかも水槽の水質処理に必要な規模となるまで待たなければならないのです。
この場合の立ち上がり完了までの推定期間は、一般的には3ヶ月とか半年とか言われています。
本当に気の遠くなる立ち上げ期間が必要なのです。
完成まで遠く長い道のりになりますが、まずは本当にテストフィッシュが入れられる状態なのか、
しばらくは水質をチェックしてください。
この監視期間は一週間程度も行えば良いと思います。全く問題なければ2~3日でも構いません。
一方、ナチュラルシステムの場合、そもそも天然素材を利用していますから、
各素材の鮮度とキュアリング状態が良ければ特に立ち上げ期間は必要としません。
すぐにサンゴを入れても問題有りませんし、小型の魚程度なら数匹くらい泳がせても問題ないでしょう。
しかしその前にしばらく水槽を監視して、本当にそれらを収容して良いのか判断する必要があります。
この監視期間は一週間程度も行えば良いと思います。
この間十分に水質チェックを行い、腐敗臭がしないか、アンモニアが出てくることはないか、
おかしな点や変化が無いかどうか良く観察してください。
その上で問題がなければ次の項で生体が入れられます。
注意ワード:栄養塩(アンモニア・亜硝酸・硝酸・リン・珪素)、pH、KH
8. テストフィッシュを入れる
さあ、ようやく生体のご入場です。
と言っても強制濾過の場合は、入れられるのは丈夫なテストフィッシュを数匹程度、
入れたいものはまだ入れられません。
テストフィッシュにはスズメダイ系が一般的です。そして水槽の立ち上がりを心を鬼にして彼らに託します。
完成までの道のりには幾多の苦難が待ち受け、何名かの脱落者を出すかも知れません。
しかしそれすらも立ち上げには利用されます。(-人-)ナムナム
まず、魚の糞、残飯、そして脱落者、
それらを分解する最初のバクテリアとして一般的な好気性細菌が発生します。
この働きにより有機物がアンモニアに分解されます。
次にアンモニアを亜硝酸に分解する「アンモニア酸化細菌(亜硝酸菌)」が発生し始めます。
更に続いて亜硝酸を硝酸に分解する「亜硝酸酸化細菌(硝酸菌)」が登場します。
この一連の流れが実現され、そして定着密度が必要量に達すれば、
その段階ではもうアンモニアも亜硝酸も検出されなくなります。
各バクテリアが連携して速やかに有機物→硝酸の分解を行うためです。
そこまでくれば強制濾過水槽の立ち上げは完了です。テストフィッシュに敬意を表し、
あとは目的の生体を入れてみましょう♪
一方ナチュラルシステムの場合、ここまでくればあとは入れたいサンゴも入れちゃってください。
天然の新鮮なライブロック・ライブサンドを用いた水槽ならほぼ問題なくここへ辿り着いているはずですが、
一部乾燥砂を用いたりライブロックの状態が悪かった場合は、
ここに来るまでに少し時間が掛かったことでしょう。
いずれにしても、サンゴあるいは給餌の少ない小型魚などを慎重に少しずつ入れていってください。
万一、給餌を多く伴う量あるいはサイズの魚を入れる場合は、大型のプロテインスキマーを設置し、
また定期的な換水サイクルの頻度を多くしてください。
しかしそれでも栄養塩レベルの推移は高めとなるため、
栄養塩にシビアなサンゴにとっては厳しい環境となるでしょう。
もちろん造礁サンゴの色揚げ等も難しくなります。
注意ワード:栄養塩(アンモニア・亜硝酸・硝酸・リン・珪素)、pH、KH