サンゴの光要求に漏れなく応答できる照明の設計と実現

2025.05.29
LED

前回の記事で触れましたが、PURとは光合成利用放射(Photosynthetically Usable Radiation)の略で、光合成有効放射(Photosynthetically Active Radiation)のPARとは異なる指標であるとご紹介しました。PARは植物が光合成で利用する可視光線400-700nmの全ての波長強度が対象である一方、PURはどの波長を実際に利用しているかの範囲を示したものです。
例えば前回のRedSea ReefLEDの場合は、その対象をサンゴのクロロフィルcに限定し、その光合成で利用される波長範囲は380-480nmである、という設計が成されていました。

しかし実際には、サンゴはクロロフィルaを持つ褐虫藻も共生相手として利用しているため、PURはクロロフィルaも対象として考える必要があります。そして、あくまでもPURが光合成利用放射と言う意味ならば、クロロフィルaのPURは以下のグラフのようになるはずです☝

多くのサンゴLEDが660nmの深赤波長を採用しているのは、これが理由です。

さらに、未だに多くのサンゴLEDが光合成しか着目しておらず、蛍光タンパクの励起波長への対策が抜け落ちています。ここを解決しないことには、サンゴの完全なる色揚げは叶いません。ここで”完全な“と書きましたが、幸いPURが示すブルー光にはグリーン蛍光タンパクやレッド蛍光タンパクを励起する励起波長が含まれており、実際に色も揚がるため、光合成も色揚げもこれで足りているんだ🤔と勘違いしている節があります。しかし、ブルー蛍光タンパクやシアン蛍光タンパクの促進が弱い点に気付き、UV域400-420nmの強化を図るメーカーも近年は増えてきました。

ここで、これらの蛍光タンパクに必要な波長帯域のことをFURと名付けました。蛍光利用放射(Fluorescentically Usable Radiation)の略で、僕が今作った造語です☝笑
このグラフではFURの帯域は理想値として360-560nmとしましたが、実際のサンゴLEDでの現実的な再現範囲は、皆さんお馴染みの400-500nmのワイドバンドブルーWBBです☝

以下に、サンゴLEDで実現可能なスペクトルデザインの基本構成をご紹介します。

まず、クロロフィルaとクロロフィルcのPURを満たすには、450nm前後のブルー光と660nm前後のレッド光があれば十分です。そして蛍光タンパクの励起波長ですが、グリーン蛍光タンパクとレッド蛍光タンパクについてはPURが持つブルー光と白色LEDが放射する中域波長で足りますが、UV域400-420nmに励起極大を持つブルー蛍光タンパクとシアン蛍光タンパク、そしてシアン光500nmに励起極大を持つイエロー蛍光タンパクについては、それぞれの励起極大の波長を追加してやる必要があります。そうした光化学の根拠に基づき組み立てられたのが、400-500nmのワイドバンドブルーWBBという訳です☝
※その他、色素タンパクへのアプローチも色揚げには欠かせませんが、効率にこだわらなければアンバー光に限らずブルー光でも強ければ濃度は増すので、ここでは割愛します

従って、敢えて僕がRedSea風に言うなら、
Coral PUR：400-480nm + 660nm
Coral FUR：400-500nm
これらの両立がサンゴには必要不可欠です☝

そうして完成したのが、2011年のKR93SPの時代から変わらぬワイドバンドブルーのフルスペクトルであり、現在もSPECTRAの基本スペクトルとして受け継がれています。

ちなみに、SPECTRAに採用されている最短波長は400nmなので、意図して400nm未満のUVAのLED素子は採用していませんが、実はこの400nmは±2nmの波長精度で管理しているので、ピーク波長の左側が400nm未満のUVA域となり、これだけでとんでもないUVA強度を持っています😳💦

見てください‼ UVAを謳ってないのに350-400nmのPFD-UVが60以上もあります✨
それを支えているのがこの強力な400nmの波長強度です☝

この400nmも含めSPECTRAのUV系素子にはUV 400nmとViolet 425nmを採用していますが、これらの波長は紫外線に次いで破壊エネルギーが大きく、焦げたり焼損しないように劣化対策としてガラス素子を採用しています。勿論、他のLED素子についても波長精度/波長強度を管理し、高次元のワイドバンドブルーを実現しています。

そして極めつけは、このSPECTRAにバイタルウェーブUVA370を足すと、サンゴの全ての要求に対して完璧な応答性能を実現してしまいます☝