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論考2:サンゴのアミノ酸取り込みの意味

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クリティカルシンキング第ニ回目は、サンゴのアミノ酸取り込みの意味についてお送りします。

  1. 論考1:サンゴと褐虫藻の問題提起 - 2015/2/19
  2. 論考2:サンゴのアミノ酸取り込みの意味 - 2015/2/20
  3. 論考3:サンゴのアミノ酸生合成
  4. 論考4:サンゴの蛍光タンパクとアミノ酸

サンゴが褐虫藻から光合成産物を受け取りエネルギーとしていることは言わずもがな。
しかしその内訳はなかなかに複雑です。
例えば、上記リンク先にも記した”海洋微生物の分子生態学入門”によれば、

  • サンゴは全エネルギーのうち
    70%を褐虫藻に依存
    17%を動物プランクトンの捕食に依存
    13%を溶存態有機物DOMや細菌の摂取に依存
  • 褐虫藻は自身が合成した光合成産物の90%をサンゴに渡す
    サンゴはそのうち48%をミューカスとして体外へ放出

とあります。
また、藤井(2011)によれば、

  • 褐虫藻は合成有機物の95%以上をサンゴに渡す (Muscatine et al., 1984)
  • サンゴは必要な炭素源の90%を褐虫藻に依存

とあります。
しかし、窒素源の経路については複雑で、まだ完全には解明されていないため、サンゴの飼育実験から窒素源の解明を試みた検証結果(藤井, 2011)を、以下に簡単にまとめてご紹介します。詳しくは論文の15P以降をご覧ください。

* 各リファレンスは記事の一番下にあります

アミノ酸窒素安定同位体比を用いた造礁サンゴの窒素源の解明 より要約
2-6. 造礁サンゴの飼育実験

ユビエダハマサンゴとオトメミドリイシを用いて、A,B,Cの3パターンの比較実験を行い、窒素源の光合成からの経路と捕食からの経路を比較する。
A : 日光に当てるが餌も与える
B : 日光には当てるが餌は与えない
C : 完全遮光し餌は与える

ユビエダハマサンゴ ・・・ 捕食なし → 実験終了
オトメミドリイシ ・・・ 捕食あり
A,Cで捕食によるアミノ酸δ15N濃度上昇、特に遮光されたCで大きく上昇
Falkowski et al., (1984)によれば「暗所では捕食依存率が60%」とのこと
Bは捕食無し

この実験では、アミノ酸窒素安定同位体比手法としてδ15Nを持つアルテミアを窒素源として捕食させ、アミノ酸にどれだけ15N濃縮が起こるかを検証しています。この実験により、サンゴは褐虫藻からの不足分を捕食から得ていることが判りました。

そして、窒素源の取り込みに関して、4Pには以下の記述があります。

サンゴ組織は独自の合成系によってNH4+を利用してアミノ酸を合成していると考えることもできる (Fitzgerald and Szmant, 1997)

そして、19Pにも以下の記述があります。

サンゴ組織と共生藻はともに海水中からNH4+やDON(尿素やアミノ酸)を取り込んで窒素源として直接利用できることが知られている (Kawaguti, 1953、Muscatine et al., 1979、Grover et al., 2008)

また、24Pにもこのような記述があります。

サンゴが下水や河川水に含まれる高いδ15Nを持つNH4+やNO3-を窒素源としてアミノ酸を合成しているからであると考えられる (Heaton, 1986)

そうです。もうこの辺でお気づきだと思いますが、捕食によって得たアミノ酸も、海水中から得たアミノ酸も、あくまでもサンゴが窒素源として得たものだということです。それは、アミノ酸としては利用されず、分解されて窒素として利用されることを意味します。さらにその窒素は、サンゴや褐虫藻がアミノ酸を合成する際にも再利用されています。
また、光合成が十分なら捕食への依存度が下がることも上の実験から示されています。従って、海水中からの窒素源取り込みに関しても、無理にアミノ酸にこだわる必要はなく、アンモニアでも硝酸でもそれなりの栄養塩さえ海水中に存在するなら、それだけで窒素源としての要件は十分に満たされると思われます。

そしてもうひとつ、これらの窒素源をどんな比率で取り込んでいるか、Renaud Grover, et al. (2008)のグラフを見てみましょう。

窒素取り込み (Renaud Grover, et al., 2008)

* Renaud Grover, et al. (2008)より引用
(NH4:アンモニウムイオン/NO3:硝酸イオン/DFAA:溶存遊離アミノ酸/Urea:尿素)

これによれば、サンゴは海水中から窒素源としてアンモニウムイオン42%硝酸イオン34%アミノ酸21%の比率で取り込んでいることが判ります。
ま、仮にこれを窒素源ではなくアミノ酸のまま利用すると仮定して見ても、どんなに最大で見積もっても、褐虫藻からドーンと受け取るアミノ酸量と比べて、エネルギー全体の僅か2.7%(13%×21%)に過ぎません。また、全体の17%を占める動物プランクトンの捕食でさえ光合成が十分な時に重要度が下がるならば、それより低い13%の窒素源取り込みに含まれる21%のアミノ酸の重要度は果たして?
と言う話。

さらに、田中(2012)から以下のことが判ります。

  • 褐虫藻は溶存無機炭素DICやNH4/NO3や栄養塩から有機物を合成し大部分をサンゴへ渡す
  • NH4/NO3の吸収の大部分とPO4の吸収は褐虫藻によるもの
  • サンゴが捕食した動物プランクトン由来の窒素やリンは褐虫藻に渡されるが、その制限によりサンゴは褐虫藻密度を制御している
  • サンゴは日常的に光合成産物由来のミューカスを放出している

引用しようと思ったらあまりに膨大になったので、詳しくは論文をご覧ください(笑)
上記以外にも、栄養の取り込みに水流が大切だったり、鉄イオンが褐虫藻を増加させたり、リンがアンモニアや硝酸より過剰になると石灰化が阻害されたり等、とても有益な情報が詰まってるので熟読をオススメします。

で、以上のことからざっくりとサンゴの全エネルギー源をグラフ化するとこのようになります。

サンゴの全エネルギー内訳

サンゴは、動物プランクトンや各種窒素源を取り込み、それら由来の窒素とリンを褐虫藻に渡します。褐虫藻はそれらを元に光合成からグリセリン、グルコース、各種アミノ酸を合成しサンゴに渡しています。これがサンゴと褐虫藻の共生関係です。そもそもサンゴは褐虫藻から相当のアミノ酸を受け取っており、且つ自身でもほぼ全ての合成が可能であるため、ただの窒素源としての僅かなアミノ酸の取り込みの意味を履き違えると混乱の元です。また、サンゴは窒素やリンを内部にプールし褐虫藻に渡す量を制限しており(田中, 2012)、結局どの方法で窒素源を取り込むかは、藤井(2011)からも判るとおり状況に応じて臨機応変だと考えられます。そしてそれは、乱暴に言えばどれでもOKなレベルであり、 必しもずアミノ酸を2.73%取り込まなければならない、と言う固執はないのです。窒素源になるものはたくさんあるのですから。

もしどーしても、窒素源としてではなく本当にアミノ酸としての利用を目的として取り込むケースを考えた場合、確かにサンゴにとっても、アミノ酸合成に掛かる代謝負担を負うより、そこにあるならそのまま取り込んで利用した方が効率が良いので、優先的に取り込むことは確かです。しかし、無いなら無いで、必要なら作るまでです。そのために褐虫藻とサンゴに備わったアミノ酸合成能です(次回参照)。その上で、もし本当にそれでも褐虫藻と自身の生産量だけで足りないのであれば、サンゴはもっと外部からの取り込み量を増やすはずです。しかし、そもそもサンゴは褐虫藻から得た光合成産物の約半分(48%)をミューカスとして体外へ放棄しているくらいです。海水から取り込んだ僅か2.73%のアミノ酸に執着するくらいなら、放棄するミューカスを削れば良いだけのこと。最悪は、放出したミューカスからいくらでも回収は可能です。何がどれだけ取り込めたのか判らない2.73%より、褐虫藻からは全てのアミノ酸をたっぷり受け取っているのです。それらの有り余るアミノ酸を無視して、ごく僅かな2.73%のアミノ酸だけに焦点を当てて添加剤の有用性を訴えるようなことがもしもあるなら、それはとても滑稽でナンセンスな行為だと言えるでしょう。
従って、アミノ酸の添加は決して否定はしませんが、積極的にガンガン入れるものでもないということです。しかも的外れに添加しても意味がありません。例えばシステインが必要なのにアスパラギン酸を入れても仕方がないと言う事です(次回参照)

しかし、サンゴから褐虫藻を奪った場合、褐虫藻から得られなくなったものをすべて添加剤によって補填しなければなりません。その場合は相当な数の添加剤に翻弄されるでしょう。なぜなら、蛍光タンパクや色素タンパクの形成を考えてもアミノ酸は20種全て必要ですし(次々回参照)、炭素源やその他褐虫藻が渡すはずだったものをすべて補わなければなりません。もちろん過剰添加は禁物ですし、水質バランスの均衡を守らなければなりません。
サンゴから褐虫藻を奪った責任に於いて、これらを確実に供給できますか?

次回は、サンゴのアミノ酸生合成について。
サンゴと褐虫藻が如何に自分でアミノ酸を作れるかご紹介します。

■リファレンス

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