今回は、今まであまり詳しく触れてこなかったハナヤサイやトゲサンゴの赤い色素タンパクについて、やや突っ込んだところまで触れてみようと思います。
思えば、僕が非蛍光の赤いサンゴの色素について言及を始めたのは・・・忘れた(笑)
・・・調べてみたら2009年末からでした。
- 紫外線LED:応援部隊 - 2009/12/21
…フィコビリン系の青や赤の色素が優位に立って発現している色彩ならば、オレンジ帯域とグリーン~イエロー帯域、あと紫外線少々、てとこかしら。…
- 紫外線LED:各ミドリイシの色彩変移 - 2010/1/3
…白LEDに含まれる緑~橙の波長域により、フィコエリトリン系の鮮やかな赤の色素の発現にも有利に働き(色素が存在した場合)…
そう、この時期はまだハナヤサイやトゲサンゴ等の赤い色素タンパクを僕は特定できておらず、あくまでも海藻由来の赤い光合成色素フィコエリトリンに見立てて仮説を展開していました。はい、色素タンパクという言葉すら知らない時期です(汗)
* フィコビリンのうち、赤の色素タンパクがフィコエリトリン、青の色素タンパクがフィコシアニン
また、この頃は特にスギノキブルーの青い色素の正体解明に躍起になっていた時期で、その正体の根幹がブルー蛍光タンパクやシアン蛍光タンパクであると確信する少し前の時期でしたから、相変わらず青い海藻の光合成色素フィコシアニンをスギノキブルーの色素タンパクに見立て、橙の波長を中心としたアンバー光を当てる事にこだわっていました。
そうして、サンゴの赤や青の非蛍光色素を促進するには緑から赤に掛けての波長の照射が必要であるという仮説に基づき、実験を進めていた訳です。
それからしばらくして、予想通り実験ミドリイシがデコライト電球色2700Kの照射によってみるみる赤くなっていった事で、仮説は確信に変わりました。
この結果を経て、やはりサンゴの赤い色素タンパクもフィコエリトリンと似た特性を持つという確信に至りました。そしてそれは、その後の協力者の皆さんらによる実験でも、同様の効果が確認されていきました。
また、このフィコエリトリンが要求する吸収スペクトルのピークは緑の波長540nm前後ですから、そこから派生して
アクアT5の緑の突出ピーク波長540-550nmもトゲサンゴやハナヤサイに効く!
とも解釈しました。
そう、今でこそトゲサンゴには緑の波長というのは既知のノウハウになりましたが、そもそもこれは僕のフィコエリトリンの仮説から導いた解釈です。
それから3年が経ち、僕もより高度な検証に取り組むようになりました。
そして2013年5月、ついにSPSの吸収スペクトルを自分で測定するまでに至りました。
すると、それまでの認識が塗り替えられる結果が得られました。
トゲサンゴのピンクや赤の色素タンパクが要求する吸収スペクトルは、フィコエリトリンとは若干特性が異なっていたのです。
- すべての答え:トゲピンク篇 - 2013/7/4
↑トゲサンゴの反射スペクトルから抽出した吸収スペクトルの例(緑色のグラフ)
* 赤色のグラフは既知の赤系SPSの色素タンパク
あら、、、トゲサンゴの吸収スペクトルのピークって緑の波長じゃなかったのね!
確かに、他の文献 1. 2. 3. を見ても、多くが560-600nmの間に集中してますね!
てことは、必要だったのは橙の波長580nm前後かっ!
しかもそれは赤に限らず、青や紫などほとんどの色素タンパクに見られた特性でした。
サンゴの鮮やかな色素タンパクは、橙の波長580nmを欲するんだぜ~!
改めて、赤系の色素タンパクとアクアT5のスペクトルを比べてみましょう。
そう、アクアT5が持つ緑の波長540-550nmは、相手がフィコエリトリンであれば吸収ピーク540nmをジャストミートできましたが、実際のトゲサンゴの色素タンパクの吸収ピークは570-590nmに集まっていたので、やや的外れな帯域を叩いていたことが判ったのです。しかもアクアT5の緑は帯域幅が10nm程度しかないので、叩ける範囲はかなり狭くピンポイントでした。にも関わらず、結果的にアクアT5でもトゲサンゴの色揚げに効果が得られていたのは、アクアT5の緑の波長強度が飛び抜けて強い事と、少なからず含まれている橙の波長580-590nmによる作用が要因ではないかと考えられます。
(簡単に言えば、100点は届かないけど50点を2倍で叩いて100点達成♪、みたいな)
また、色素タンパクの特性によってはアクアT5と相性の良いタイプもあり、例えばCP-560系あたりなら吸収ピークのおよそ8合目は叩けているように見えます。しかし、逆に吸収ピークの離れたCP-593系あたりに対してはせいぜい4合目しか叩けず、色揚げ率は半減するかも知れません。その場合、やはりフラットスペクトルの蛍光灯の方がオールマイティな色揚げが期待できそうです↓
一方、デコライト2700Kのスペクトルカバー率は秀逸でした。改めて感動です↓
しかし、そのさらに上を行くスペクトルがあります。それが、KR93XP/KR93SPにも搭載されている580nmピーク・ニュートラルホワイト4000K LEDです↓
デコライト2700Kの赤630nm大盛りのスペクトルも良いのですが、陸生植物や水草と違い、サンゴに対してはちょい赤が強すぎる。。。それは、SPSカラーレポートからも判明しましたが、多くのサンゴは赤630nm前後の波長はあまり積極的には利用していませんでした。色素タンパクの要求580nmやクロロフィルaの660nmに対しては大きく窓口を開いているにも関わらず、赤630nmに対してはほとんどのサンゴが窓口を閉ざしていたのです。それは赤いサンゴに関わらず、他の色彩のサンゴでも同様の結果でした。
これはもしや・・・大半のサンゴは630nm前後の赤を嫌っていると言う事か?
そう言えば、こんな実験結果も出てましたよね。
赤光でサンゴが白化・・・
- Effects Of Narrow Bandwidth Light Sources On Coral Host And Zooxanthellae Pigments - 2003/11
- The Best Lamp Is… - 2008/12
本来、海中にはあまり強く存在していない赤光のサンゴへの悪影響を考慮すると、やはりサンゴ用照明に用いるのは、630nmにピークを持つ電球色のウォームホワイト2700Kよりも、580nmにピークを持つ温白色のニュートラルホワイト4000Kを使用した方が、危険要因を排除するという意味では無難な選択肢と言えそうです。
ちなみに現時点での僕の赤光に対する解釈は、あくまで他の波長との強度バランスに極端な差異がなければ、単独で照射しない限り悪影響は薄いとみています。
赤系色素タンパクの吸収スペクトルに対するKR93XPの白チャンネルのカバー率↓
またもう一つの補足として、色素タンパクにはUV 400nmによる更なる色素濃縮効果(赤→赤紫化、青→青紫化)が挙げられます。これは植物の場合でもブルーベリーや赤い果実の色素濃度を促進するのが紫外線である事からも判るように、サンゴでも紫外線バリアとしての色素濃度促進効果が期待できます。勿論、多くのサンゴが持つもうひとつの紫外線バリアとしての蛍光タンパク(特にシアン蛍光より短波長励起蛍光タンパク)も、このUV 400nmによって強力に促進される事が確認されていますので、ことサンゴの色揚げに関してはUV 400nmは色んな面で欠かせない波長となっています。
KR93XPによるハナヤサイ・トゲサンゴの発色例↓
KR93XPはアンバー光確保のためにKR93SPと比べ約半分の量のUV素子をニュートラルホワイト素子に置き換えています。とは言え、それでも巷の製品よりは断然強いUV量が確保されています。
以上、サンゴの色素タンパクの色揚げに役立てて頂ければ幸いです。