皆様、明けましておめでとうございます。
お陰様で1.023worldも18年目に突入しました♪
今年もどうぞ宜しくお願いします!
年明け一発目は豪華なネタを大放出です♪
あの美しいイチゴやスパを育むオーストラリアのサンゴ礁♪
その海中スペクトルって一体どーなってんの~スペシャル!
この記事では、判りやすく串本とグレートバリアリーフを比較して進めていきます。
ホントはデータだけなら去年の春には出せましたが、その後のオージーサンゴの吸収スペクトル調査結果(カラーレポートVOL3)や、第17回サンゴ礁学会での情報収集に基づく既存データの裏付けや理論考察等に時間がかかりました。
これを読めばすべての謎が解けるかなぁ~?
一見長めだけど(汗)、写真ばっかりなのでサクッと読めちゃうはずです♪
疑惑1:オーストラリアと日本近海は水質が違うの?
比較的地味なサンゴで構成される日本近海のサンゴ礁に対し、派手な色彩のサンゴが際立つオーストラリアのサンゴ礁。一体何が違うのか?
だって、海水の成分構成なんて世界中どこも似たようなモノですぜ?
そんなこと言ってたら、水槽の方がよっぽど日々変化して不安定です(笑)
特に栄養塩レベルはシステムに依存して変動が激しい場合も!
そりゃ勿論、河口や漁港は透明度も悪いし栄養塩濃度も高いけど、サンゴ礁という区域で見れば、成分も栄養塩もあまり大差はありません。
ならば、水質なんてせいぜい基礎成分の再現維持に努めていれば十分では?
あ、溶存濃度が管理できるなら、日々の添加剤での補正も有益ですよね。
カルシウム然り、マグネシウム然り、カリウム然り、あとヨウ素も揮発性が高いからOK。
ただ、測りようのないモノは隠し味程度にね。それ以上に入れちゃダメ、絶対。
だってそうでしょ。消費量も溶存量も見えないモノを一体どれくらい添加するの?
結局可笑しくなって換水するしかなくなっちゃうんですから。。。
海水 - Wikipedia より抜粋
海水の塩分濃度は測定の位置により一様ではないが、
塩分の構成についてはほぼ一定である。
この内、塩分は、
- 塩化ナトリウム 77.9%
- 塩化マグネシウム 9.6%
- 硫酸マグネシウム 6.1%
- 硫酸カルシウム 4%
- 塩化カリウム 2.1%
- その他
海水に含まれる主要なイオン・化学種
成分 |
化学式 |
質量% |
溶質% |
ナトリウムイオン |
Na+ |
1.0556 |
30.61 |
マグネシウムイオン |
Mg2+ |
0.1272 |
3.69 |
カルシウムイオン |
Ca2+ |
0.0400 |
1.16 |
カリウムイオン |
K+ |
0.0380 |
1.10 |
ストロンチウムイオン |
Sr2+ |
0.0008 |
0.03 |
塩化物イオン |
Cl− |
1.8980 |
55.05 |
硫酸イオン |
SO42− |
0.2649 |
7.68 |
臭化物イオン |
Br− |
0.0065 |
0.19 |
炭酸水素イオン |
HCO3− |
0.0140 |
0.41 |
フッ化物イオン |
F− |
0.0001 |
0.003 |
ホウ酸 |
H3BO3 |
0.0026 |
0.07 |
* 文中の強調は当方による
はい!ここでひとつ消えたぁ~♪
疑惑1:水質の差? → 水質の差では無い
ここでちょっと脱線。
体験者の方々にはもうお馴染みだと思いますが、
- スギノキ・ブルーがチャイロイシになっていく?
- ウスエダ・ブルーがマットなブルーになってしまう?
- スパのギラギラした鱗が消失していく?
- イチゴのグリーンが消失してピンク(赤)だけになってしまう?
のようなお悩みに対して、
- メタハラに戻す(笑)
- 400-420nmのUV系(以下、UV系)の多いLEDに切り替えるか、
UV系LEDスポットを足す
のような対処によって蛍光が戻っていくことは、ようやく周知の事実となりました。
知らない方は、まず体験すると良いです。それが手っ取り早い!
ま、元々メタハラの人にとっては対岸の火事だろうけど(汗)
いやぁ~長かったぁ~笑
思い起こせば、僕がボルクスにUV 400nm入りLEDスポットの製造を打診したのは2009年で、翌2010年には製品化されましたが、当時から色々冷やかされましたからねぇ(笑)
でもその後、UVストレスによる蛍光タンパクの増加現象が Yuyama et al. (2012)らによって報告されたり、まあ今となれば懐かしくて良い想い出です(笑)
そうして今では世界の各社がこぞってUV LEDを採用するに至りました。
EcotechMarine然り、AI然り、Vertex然り。。。そう思えば、比較的初期から積極的にUVを採用していたMaxspectやIllumagicあたりは革新的でしたよね~♪
話を戻して、先ほどの理屈を簡単に説明すると、
- スギノキ・ブルーはブルー蛍光タンパクやシアン蛍光タンパクで色素構成されているので、その蛍光タンパクを励起できるUV系の波長が光源に含まれていないと、当然蛍光は発現できないし、いずれ色褪せていきます。
- ウスエダ・ブルーはブルー蛍光タンパクやシアン蛍光タンパクに加え、ベースにはブルー色素タンパクを持つため、上記の理由で蛍光タンパクが消失しても、ブルー色素タンパクだけは吸収要求(極大)のアンバー前後の波長(緑~赤)がそこそこあれば維持され、結果ギラギラ感の失われたマットな濃いブルーに落ち着きます。これはこれで綺麗ですが、本来の自然下での色彩ではありません。
- スパのギラギラした鱗模様はシアン蛍光タンパク等で構成されていますが、その保有量がとても多いため、あのような鱗模様となって見えますが、やはり励起源となるUV系の波長が無いと鱗模様が消失し、ただの色素タンパク色だけが残ってしまいます。
- イチゴの幹のグリーンはシアン蛍光タンパクですが、やはり励起源となるUV系の波長が無いとグリーン部分が消失し、ただのレッド蛍光タンパクだけが残ってしまいます。
このようなフローを辿るからです。
はい。励起波長による蛍光発光は歴とした光化学です。水質だけ整えてどーこーできる代物ではありません(勿論、基礎成分を確保することは当然必要です)。
そこを理解されないと、いつまで経ってもブルーやシアン蛍光はコントロールできません。
一方、蛍光グリーンや蛍光レッドあたりなら、青を含むライトで容易に維持出来ます。
このように、蛍光タンパクにはブルーやシアン、グリーン、レッドなど多数存在し、その発光色によって励起できる波長(=維持出来る波長)が異なります。それらを一緒くたにすると間違いの元です。それぞれにどの波長が必要なのか、良く見極めましょう。
写真は、ブルー蛍光タンパクが維持されギラギラしたウスエダ(左)と、ブルー蛍光タンパクが消失してマットなブルー色素タンパクのみになってしまったウスエダ(右)です。
写真は、幹のシアン蛍光タンパクが維持されたストロベリー(左)と、幹のシアン蛍光タンパクが消失し、ブルー光励起によるレッド蛍光タンパクのみが残ったストロベリー(右)です。
よって、万一そうした色落ちを招いてしまったとしても、そこへUV系の波長を戻してやれば、ほとんどの場合蛍光は回復するはずです。ただ、完全に消失してしまった後だと、既に衰弱してポリプすら出さない状態だったり、何より蛍光タンパクが無い訳ですから、UVを当てるとそのまま共肉の細胞にダメージを与えてしまいます。そう、ブルー/シアン等の蛍光タンパクはUV防御でもありながら、様々な抗酸化作用を併せ持つことも判っているので(Higuchi 2014)、蛍光が消失していると言うことは、様々なストレスが処理できずに衰弱している可能性が極めて高いと考えられるのです。
なので、戻すなら手遅れにならないうちにオススメします。
疑惑2:じゃあ、オーストラリアの空はUVが多いの???
さて、前置きが長くなりましたが、ここからが本題です。
2013年8月に串本で測定したスペクトルと、2014年4月にグレートバリアリーフで測定したスペクトルを比較していきます。
まずは串本とグレートバリアリーフの海上での太陽光スペクトル比較です。
注) 串本で使用した防水ケースとオーストラリアで使用した防水ケースが異なるため、400nm以下のUVの透過率が異なっている点に注意してください
(400nm以下の波形は無視して結構です)
どちらも晴天で正午頃(12時台)のものでしたが、全く同じスペクトルでした。
なんだぁ…てっきりオゾン層が薄いのか?とか思ってた(笑)けど、誤差の範囲でしたね。
結局、串本にもオーストラリアにも、可視光線域に関しては緯度にあまり左右されず、同じ太陽光スペクトルが降り注いでおりましたとさ♪
はい!ここで二つ目消えたぁ~♪
疑惑2:緯度の差? → 緯度の差では無い
疑惑3:てことは、オーストラリアの海中のUVが多いのか?
続いて、気になる海中スペクトル、水深50cm、水深1M、水深3Mの比較です。
おおおおおおおおおお!!!
やっぱりグレートバリアリーフはUV 400-420nmがてんこ盛りだったのかぁぁぁ♪
てことは、
疑惑1:水質の差? → 水質の差では無い
疑惑2:緯度の差? → 緯度の差では無い
正解:海水の透明度が高いから深場までUVが届いている!
これが答えでした~!
そして、ここまでは単なる相対グラフでしたが、試しに波長強度も比較してみましょう。
ま、浅場は水面の波紋によるレンズ効果が大きいため、キラキラする水中で拾った照度はあまり当てになりませんが、あくまで参考程度にご覧ください。
*縦軸はスペクトロメーターの受光素子の単なるカウンタ量なので単位はありません
とは言え、やはりこれは透明度の違いですね。約2倍近くの光量差が見られました。
しかもUVがロス無く届いていることからも、かなり透明度が高いことが伺えます。
串本の水深3Mは陸上に比べかなり400-420nmが削れてるのに対し、グレートバリアリーフの水深3Mは陸上と遜色ないUV強度が確保されているようです。
なるほど~。これがオージーサンゴのシアン蛍光バリバリの秘密だったのか~!
ちなみに、偶然面白いことを発見しました。
串本の水深3Mと、グレートバリアリーフの水深5Mは、ほぼ同じスペクトルでした(笑)
凄いシンクロ率!
これは、「透明度」と言うフィルターが変化しても、光量こそ変われど、波長の減衰特性は変わらないことを意味してますね。だって、濁った串本の水深3Mと、クリアなグレートバリアリーフの水深5Mのスペクトルが一致した訳ですから。濁っていても透き通っていてもスペクトルの減衰結果が同じと言うのは、ちょっとした発見でした♪
とは言え、それでもUV 400-420nm域はGBRの勝ちですけどね(笑)
UVってホント、減衰しやすいですねぇ。。。
でも、ふと疑問を持ちませんか?
グレートバリアリーフなら水深5MでもUVが十分に届いてブルーやシアン蛍光が促進されることが判ったけど、串本でも水深50cmならUVもそこそこあるやん!と。
じゃあ串本でも水深50cmならスギノキ・ブルーがおってもええやん!と(笑)
でもね、ダメなんですよ、50cmなんて。干潮時に完全に陸上になっちゃうんで(曝)
はい。干満差が3-4Mなんてザラですからね、太平洋側は。
だから、干潮時でも水面に露出しない十分な水深に生息しているサンゴに、且つ満潮時でも余裕でUVを届けることができるグリートバリアリーフだからこそ、干潮時も満潮時も十分なUVを浴び続けられ、あのような派手な蛍光タンパクによる色彩を育むことができる訳なのです。しかも干潮時にはさらに凄い量のUVを浴びて、これはまさに蛍光タンパクの大運動会やぁ~♪笑
う~ん、納得♪
串本の水景 (2013/8)
串本は主にこんな色彩がメインですね。
串本の場合、透明度が悪くUVがほとんど届かないため、ブルーやシアン蛍光タンパクを発現させる必要がありません(と言うか励起光がなければ発現しようがない)。よって、サンゴの色彩は主に褐虫藻による褐色がベースですが、UVは届かなくてもブルー光は減衰せずに届いているため、ある程度の強いブルー光はUV防御と同じように蛍光タンパクで波長シフトをおこなって光エネルギーを減衰させる必要があります。そのため串本ではブルー光を励起源とするグリーン蛍光タンパクを持つミドリイシはよく見られます。
串本の水景の理由って、要はそういうことなのです。
とは言え、まったく同じ水深でも蛍光グリーンを持つモノと持たないモノが混在していて、その理由はまだハッキリ判りません。一説には、プラヌラ期に取り込む褐虫藻のクレードの違いによって、発現できる蛍光タンパク量に制限が生じるとの報告(Yuyama et al. 2012)もありますが、今後の研究課題です。
串本でも、超浅場では真っ赤に熟れたハナヤサイが見られます♪
ハナヤサイの鮮やかな赤色はレッド色素タンパクです。
本種には光量が必要なので、串本の場合、綺麗な個体は超浅場でしか見られません。
たまに、ちょい深め(2-3M)で見かけても、こんな感じです。もっと光を!笑
* 写真提供(上記4枚):だにやん
おまけ。
串本でも超浅場なら青いイソギンチャクがたまに見られます♪
但し、ブルー蛍光タンパクではなく、ブルー色素タンパクですが。
グレートバリアの水景 (2014/4)
スパスラタ・バイオレットは、ブルー蛍光タンパク+レッド色素タンパクの色素構成です。
(SPSカラーレポートVOL1 - 7P参照)
スパスラタ・イエローは、シアン蛍光タンパク+イエロー色素タンパクの色素構成です。
(SPSカラーレポートVOL3 - 10P参照)
スパスラタの多くは非常に濃い蛍光タンパクを持つため、ポリプ外縁の蛍光発光が強く目立ち、まるでウロコのように際だった色彩が特徴的です。
スパの色彩は本当に芸術性が高いですね♪
こちらは蛍光タンパクを持たないレッド色素タンパクのようです。
水深5Mでも、アンバー光を含む十分な中域波長が届いているってことですね。
ハナヤサイ、串本なら水深5Mだと光量不足で真っ白でしょう(笑)
* 写真提供(上記5枚):BH和田
最後に…
但し、これらは海中スペクトル測定結果から推察された透明度の違いによるUV透過量からだけの考察です。実際の蛍光タンパクと色素タンパクがそれぞれどこからきて、サンゴがどれを選択するのか、まだ詳しく解明されていません。
とは言え、褐虫藻に関しては、サンゴは遺伝的な嗜好を持つことが研究で判っています。また、蛍光タンパクにしろ色素タンパクにしろその主成分はアミノ酸であり、その構築に必要なアミノ酸はすべてサンゴと褐虫藻が産生しますから(Shinzato 2011)、もしかしたら形成する蛍光タンパク・色素タンパクの選択肢も、褐虫藻のクレードの影響を受けているのかも知れません。事実、褐虫藻のクレードによって蛍光タンパクの発現量が制限されることが判っています(Yuyama et al. 2012)ので、今後の研究が待たれます。
■リファレンス
■データ提供元
- 串本の海中スペクトル:エイジ (2013/8)
- グレートバリアリーフの海中スペクトル、生態写真:BH和田 (2014/4)
- 串本の生態写真:だにやん (2013/8-9)
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