(将来のコンテンツのための雑学メモ 1.)
サンゴ礁を形成するサンゴの仲間は、活動に必要なエネルギーの大部分を、体内に共生する渇虫藻の光合成産物から得ています。
この渇虫藻は、シンビオディニウム・ミクロアドリアチカム(Symbiodinium microadriaticum Freudenthal, 1962
)という光合成型渦鞭毛藻で、主にサンゴに共生することで知られる渦鞭毛藻の仲間です。
また、ミドリイシのような造礁サンゴからソフトコーラルまで、光合成をする多くのサンゴに共通する共生藻と言われています。
(尚、これらの共生藻には、近年の研究で複数の遺伝子型が存在することが判明した)
この共生藻は大きさが 10μm 程度の球体で、サンゴの体内では 1mm3 あたり約 30,000 個ほどが活動しています。
一方で、高水温や光の影響によりサンゴの体内から放出された際には、通常の渦鞭毛藻と同様の特徴である 2 本の鞭毛を備えます。
ちなみに、この時の渇虫藻の離脱が著しい場合には、世に言うサンゴの白化現象となりますが、環境が改善されれば渇虫藻は再びサンゴに取り込まれ、活動を再開します。
(7/11追記:サンゴの白化は渇虫藻の離脱ではなく脱色だと言う新たな報告もあるようです。by TAKAさん情報)
以下のデータは、放射性同位元素 14CO2 を用いてハナヤサイサンゴから得られたエネルギー収支の調査結果です。
J:ジュール | 渇虫藻の光合成エネルギー1日あたり | ||
---|---|---|---|
渇虫藻の全生産量 | 250.7J | 100% | |
用途 | 渇虫藻の成長 | 0.22J | 0.1% |
渇虫藻の呼吸 | 24.6J | 9.8% | |
サンゴの成長 | 2J | 0.8% | |
サンゴの呼吸 | 103.6J | 41.3% | |
体外へ放出 | 120.3J | 48% |
海洋微生物の分子生態学入門より
サンゴから放出された無固多糖類(グリセリン、グリコース、アミノ酸などの光合成産物)は、魚類や甲殻類等の生物の栄養源となります。また、サンゴへの堆積物、環境の急変などの外的要因(ストレス)によっても、防御反応として放出される場合があります。
サンゴのエネルギー源 | 100% | |
---|---|---|
摂取 | 渇虫藻の生産物 (炭素源) | 70% |
動物プランクトン (窒素源) | 17% | |
溶存態有機物、細菌 (リン等) | 13% |
サンゴは必要なエネルギーの約 70% を渇虫藻から得ていますが、その中には石灰化に必要な有機物の生成に関与する成分も含まれおり、これは造礁サンゴと渇虫藻が強い共生関係にあることを示唆します。
その他にも、動物プランクトンや細菌、溶存態有機物など、約 30% を自身で直接取り込んで利用しています。
参考:海洋微生物の分子生態学入門
1. TAKA 2009/07/11 12:01
エイジさん、
コンテンツ楽しみにしていますね。
ご存知かと思いますが、白化は褐虫藻が離れることで起こるのではなく、変化して透明になること言うような研究結果もあるようです。
http://www.okinawatimes.co.jp/news/2009-05-27-M_1-029-1_001.html
大御所さんのページも非常にためになりました。エイジさんのお知り合いかもしれませんが。。。
http://www2u.biglobe.ne.jp/~DIY-REEF/coralree.htm
2. エイジ 2009/07/11 17:08
すみません。なんか勝手に承認待ちになってました(汗)
沖縄タイムスの記事ありがとございます。これは見てませんでした。
これは新しいですね。排出ではなく脱色(死滅)ですか。
でも、渇虫藻が逃げ出さずにサンゴと運命を共にすると言うのはロマンチックです(笑)
逃げる間もなく斃死するのかな。あるいは逃げられない構造によるとか?
3. エイジ 2009/07/11 17:54
白化について追記させて貰いました。ありがとございます。
ところでこの場合でも、サンゴのコントロールによる排出は、それはそれであると思っていて良いんでしょうかね。
4. TAKA 2009/07/11 22:29
エイジさん、
沖縄タイムスの記事は、私も違う人から教えていただきました。非常に無いように驚きました。
>サンゴのコントロールによる排出
何の科学的根拠も無いですが、個人的にはあると思います。褐虫藻自身が珊瑚から出ることは無いが、珊瑚によにる排出はあると考えます。
白化すると褐虫藻が変化して透明になり、その状態では十二分に珊瑚に栄養を与えることができないので、珊瑚が褐虫藻を排出することはないと考えました。
珊瑚は褐虫藻に対して惨い気もしますね。。。
5. エイジ 2009/07/12 19:05
> 白化すると褐虫藻が変化して透明になり、その状態では十二分に珊瑚に栄養を与えることができないので、珊瑚が褐虫藻を排出することはないと考えました。
ただでさえ足りないので手放すことはない、と言う考え方ですね。
あるいは、要求を満たさないため、逆に排出と新規獲得に走りそうな気もしますが、仮にそれがあったとしても環境が改善されなければ同じ結果になりますよね。
体力温存のため、無駄な悪あがきはしないのか(汗)
しかし脱色ってことは、恐らくクロロフィル(葉緑素)の破壊かなと思うのですが、渇虫藻は一度失ったクロロフィルをまた再生(獲得?)できるのだろうか。
海藻が高水温で溶けちゃうのも、似たような理屈だろうか。
そう思うと、排出ではないにしても、渇虫藻はやっぱり死滅か溶解によってサンゴから喪失することによって白化になってるようにも思えます。
沖縄タイムスの続き来ないかなぁ。。。
6. TAKA 2009/07/12 23:40
エイジさん、
下の論文を読む限り、一度傷ついた褐虫藻は回復しないようです。
http://subtropics.sakura.ne.jp/files/h13coral/h13_sango_2_03.pdf
>沖縄タイムスの続き来ないかなぁ。。。
元の論文を探しているのですが、まだ見つけることができていません。
7. エイジ 2009/07/13 00:46
おお。ありがとございます。
> 下の論文を読む限り、一度傷ついた褐虫藻は回復しないようです。
僕が読んだ印象では、どちらかというと母体の回復は渇虫藻の回復とも受け取れるんですが、詳しい中身として、これが渇虫藻自体の回復なのか、正常体の増加なのか、ちょっと判りづらいですね。
ま、「色素の損傷」と言うニュアンスからすると、やっぱり前者による回復なのかな。
だけど、今まで漠然と捉えていたものが、お陰で結構ハッキリ見えてきました。
それも、初期の排出と末期の排出では、サンゴ自体の高温下に於けるコントロールの暴走具合が読みとれて、とても興味深いです。
とすると、先日の沖縄タイムスの記事はどう捉えたらいいのだろう。。。