光合成色素については、なかなかまとめるための情報に恵まれませんが、きりがないので一旦まとめちゃいたいと思います(笑)
海洋生物の光合成色素の種類と吸収スペクトル
以下の2枚の図は共に視覚でとらえるフォトサイエンス生物図録(数研出版)より引用。
これはサンゴではなく主に藻類に見られる光合成色素ですが、サンゴも同系統の多様な光合成色素を持つと思われます。
上の表でも、クロロフィルaが多くの藻類の主要色素として存在していることが判りますが、併せて他の色素も主要色素として働いていることが判ります。青や赤のシアノバクテリアにはフィコビリンが、褐色の珪藻類にはカロテノイドが存在し、それらがそれぞれの特徴的な色彩の要因となります。
これは各光合成色素が吸収する波長帯を表したスペクトルグラフです。「吸収」とは、その波長帯が光合成に利用されているという意味になります。
例えば、緑色の曲線は陸生植物でも大部分を占めるクロロフィルの吸収特性であり、市販の植物育成ランプのスペクトルもこれに対応した特性を持っています。
しかし、海洋生物は、その多彩な色彩が示すように、クロロフィル以外の光合成色素が非常に多く活躍しており、むしろ植物育成ランプに無い波長域こそ配慮しなければならないでしょう。
よく見かける植物育成ランプのスペクトルはBR型が多く、オレンジ帯域の欠落が気になりますが、HGやFRはシアノバクテリアのフィコエリトリンやフィコシアニンを見事にカバーしているように見えます。このスペクトルの形を覚えておいてランプ探しをすると良いでしょう。
ちなみに、このHGやFRのスペクトルは、実は一般蛍光灯のそれと大差ないようにも見えるのですがねぇ(汗)
スギノキミドリイシに必要な光源の考察
シアノバクテリアが持つ鮮やかな青や赤の色素を例に取ると、赤はフィコエリトリン、青はフィコシアニンですが、以前Tetsuo氏から頂いた情報でも、スギノキミドリイシの青の色素はChromoproteins-588と言う色素で、主に566~620nmのオレンジ帯域の波長光を利用し、特に588nmを吸収するとのことで、やはりこれはフィコシアニンの吸収波長特性に酷似しています。
このフィコシアニンの特性を上の図で見ても、クロロフィルの特性とはまったくカブッていないことが判りますから、もしスギノキを青くしようと思ったら、クロロフィル向けの植物育成ランプではなく、まずは橙色を優先的に多く含むランプをチェイスしなければならないでしょう。
そのことからも、スギノキの飼育に向いたランプとしては、比較的色温度の低い6,500K~10,000Kあたりのメタハラが、まずは無難なところです。あるいは蛍光灯なら、植物育成ランプの多く(BR等)は肝心の橙色を欠いたものも多いため、下手なランプより普通の白色蛍光灯の方がマシかも知れません(汗)。と言うか、蛍光灯でスギノキの要求する照度を用意するのも大変ですけどね(苦笑)
で、問題はLEDでこれを実現する場合です。ピンポイントでオレンジ色を用意することもできますが、ひとつの波長のみでは自然光であり得ない分布ですし、それによる生体の反応が判らないため、やはり満遍なく帯域をカバーしつつ、その上で橙色をある程度のレベルで確保したいものです。
そのために考えられるのは、やはり白色LEDや電球色LEDでしょう。これらのLEDには黄色をピークに緑から橙まで満遍なく含まれていますから、とても理に適う選択と言えます。
但し、フルカラーRGBの3原色による白色LEDは除外しなければなりません。なぜなら、フルカラーRGBは見た目こそ白色光ですが、中身は赤・緑・青のピンポイントを並べただけですから、緑と赤の間が大きく欠落していて橙色が含まれていません。もしどうしてもフルカラーRGBによる白色LEDを使うなら、そこに580~590nmピーク程度の黄色の素子を同レベルで補完すると良いでしょう。まぁ、それでもある程度の帯域抜けはどうしても発生しますので、白色LEDを使ったほうが早いと思いますけどね。
1. はら 2015/06/09 14:26
こんにちは、私は紅藻トサカノリの研究をやっていますが、
普通の白色のライトで培養すると、赤色が褪せていき、緑になってしまいます。
ずっと栄養塩の問題だと思っていましたが、文章を読むと、もしかしたら、色とは関係あるかもしれないと。
紅藻トサカノリは主に10Ⅿ以深の環境で生えると鮮やか色になるので、その水深だと赤がまずなくなると思います。もし宜しければ意見をいただきたいですが、インキュベータの中で水深10Ⅿの光条件を作りたいならば、有色の透明フィルムで培養器をまんべんなく包んだらどうかなと考えていますが、何色で包めば赤色を除けるか、教えて頂きたいです。もし宜しければ教えていただくと助かります。
2. エイジ 2015/06/09 14:54
紅藻トサカノリの色素がフィコビリンであれば、緑の波長を中心に当てると良いように思いますが、実際には海中と同様に青~緑を主体とした波長構成で照射するのが無難だと思います。
http://www.1023world.net/blog/wp-content/uploads/2011/08/20110825-sea-depth-spectrum.jpg
現在はどのようなライトを当てておられますか?
フィルターでスペクトルを得るより、ブルー系のLEDライト等を使われた方が早いと思いますが、インキュベータのスペースの都合でしょうか?
3. はら 2015/06/09 17:10
回答ありがとうございました。
研究室ではブルー系のLEDライトを購入するのが難しいと思いますが、
もし、フィルターで貼る形で行うなら、緑と青を両方貼りますか?そうしたら、変な色にならずに、きちんと青と緑のみを透過させる光を提供できるでしょうか?
今は普通の白蛍光管ですね。
4. エイジ 2015/06/09 17:23
青と緑を重ねてしまうと双方を減衰させてしまうので、間を取って水色のフィルムを探されるか、白色蛍光灯なら半分を青で覆って残り半分を緑で覆えば、青と緑が半々で残ると思います。(面倒なので青一枚でも良いような気はしますが…)
それか、蛍光灯の球の交換が可能なら、同じサイズの青球に交換するのも手です。
http://www.1023world.net/blog/the-delicious-fluorescent-bulbs
もっともお勧めなのはFL20SBWと言う球で、これでちょうど水深10Mのスペクトルです。
無ければFL20SBでも良いと思います。
5. はら 2015/06/16 16:41
なるほどです、説明ありがとうございました。
やはり蛍光灯の方がおすすめですよね、しかし、研究室の実験なので、安価で同じ効果を出せるのが最も良いと言われました。
良いアドバイスいただいて感謝致します。
6Mより浅いところの黄化したトサカノリの体色改善に関する研究を行っています。
自分も熱帯魚を飼っています、また何か質問があれば、対応していただけると助かります。
どうもありがとうございました。
6. エイジ 2015/06/16 18:09
お役に立てることがあればまた何なりとお尋ねください。
ちなみに、フィルムがいくら掛かるか判りませんが、蛍光管は1本500円程度ですよ。
7. はら 2015/06/29 22:45
100cmで千円のやつでした。
実験経費は教授に請求するので、LEDとファイルム両方の研究計画を出したら、LEDはもうすでに実験されていたらしくて、またチャンスがあれば、お願いします。
8. エイジ 2015/06/30 11:50
LEDと言ってもスペクトルも強度も様々なので、もし一般的な白色LEDあたりで実験されたのであれば、次回ちゃんとした水深スペクトルを有したLEDでの再実験も有意義だと思いますよ。ま、海藻はサンゴほど結果に差異は出ないかも知れませんが、サンゴの場合スペクトルの違いにより雲泥の差が出る場合があります(笑)