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論考3:サンゴのアミノ酸生合成

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初回の問題提起は、facebookのいいねが初の70越えで関心の高さが伺えました。
きっと普段サンゴに関わらない皆さんにも、サンゴの心の叫びが届いたのかも知れません。
このまま拡散されて社会問題になったら、サンゴ飼育の意識も変わってくるかも。。。

クリティカルシンキング第三回目は、サンゴのアミノ酸生合成についてお送りします。

  1. 論考1:サンゴと褐虫藻の問題提起 - 2015/2/19
  2. 論考2:サンゴのアミノ酸取り込みの意味 - 2015/2/20
  3. 論考3:サンゴのアミノ酸生合成 - 2015/2/21
  4. 論考4:サンゴの蛍光タンパクとアミノ酸

サンゴが褐虫藻から受け取る栄養の内訳は一般的にはグリセリングルコース(ブドウ糖)、アミノ酸などの有機物と言われています。しかもアミノ酸なんて最低でも20種類もあるのに、実際に褐虫藻はどれだけサンゴに受け渡しているのでしょうか?

そこでオススメの最新の文献がこちらです。

Chuya Shinzato, Mayuri Inoue, Makoto Kusakabe, (2014)
A Snapshot of a Coral “Holobiont”: A Transcriptome Assembly of the Scleractinian Coral, Porites, Captures a Wide Variety of Genes from Both the Host and Symbiotic Zooxanthellae.
PLoS ONE, 2014; 9 (1): e85182

これは、例のコユビユドリイシの全ゲノム解析をされた新里氏らの2014年の研究論文で、ハマサンゴのアミノ酸合成についても解析結果が記されています。ただ、こちらは全ゲノムを解析したモノではないそうで、恐らくはすべて解析すればコユビミドリイシのようにほぼすべてのアミノ酸合成能が示される可能性はありますが、とは言えこれだけでも考察に十分な結果が得られています。とりあえずは参考程度にご覧下さい。以下、論文より引用です。

Figure 4. Amino acid metabolism in Porites holobiont.
図4. ハマサンゴのアミノ酸代謝

ハマサンゴのアミノ酸合成能

グラフの左半分が必須アミノ酸、右半分が非必須アミノ酸で、茶色が褐虫藻、青がハマサンゴ本体、矢印が酵素の流れで、各行右端の矩形がそのアミノ酸の合成能を示しています。実線の矩形は合成能が確定したものですが、破線は確定に至らなかったものです。
但し、これらの合成能は実際のアミノ酸合成実験を経ておらず、あくまでも合成遺伝子の有無からの判定に止まっています。とは言え、サンゴはともかく褐虫藻は分類的に海藻や藻類と同様すべてのアミノ酸合成能を持っていますので、実質サンゴは褐虫藻由来のすべてのアミノ酸が利用できると解釈して問題は無いでしょう。

注) 必須・非必須はあくまでも人間界(動物界)での合成の可否を分けたものであって、
サンゴにとっての必要・不必要を示すものではありません。勿論すべて必要です。

尚、グラフ右上の各数が合わないので新里氏に確認したところ、本来はカウントしないはずの破線を、青のハマサンゴについてはカウントしてしまったようです。
なので、本来は
10(8)4(0)3(0)
が正しいカウントだったようです。
それを表にまとめると以下のようになります。

ハマサンゴの本体と褐虫藻のそれぞれのアミノ酸合成能
必須アミノ酸 合成能 非必須アミノ酸 合成能








Arginine アルギニン - Tryosine チロシン -
Valine バリン - Proline プロリン -
Isoleucine イソロイシン - Serine セリン -
Leucine ロイシン - Glycine グリシン - -
Phenylalanine フェニルアラニン - Cysteine システイン -
Tryptophan トリプトファン - Glutamicacid グルタミン酸
Tereonine トレオニン - Glutamine グルタミン
Methionine メチオニン - - Asparticacid アスパラギン酸
Lysine リシン - - Asparagine アスパラギン -
Histidine ヒスチジン - Alanine アラニン

最低でもサンゴか褐虫藻のどちらかが合成できれば、サンゴはそのアミノ酸を利用することが出来るということになります。この表の場合、サンゴが作れるものは非必須アミノ酸、褐虫藻にしか作れないものが必須アミノ酸、と捉えると判りやすいかな。但し、このハマサンゴの例では全ゲノム解析がなされていないため、この表のようにまだ未確定がいくつも残っていますが、例のコユビミドリイシの全ゲノム解析ではコユビミドリイシはシステインを合成できないが、それ以外はすべて合成でき、また褐虫藻はすべてのアミノ酸を合成できることが判明しましたから(Shinzato C, et al., 2011)、このハマサンゴの場合も恐らくすべてのアミノ酸が利用出来る可能性は高そうです。

ちなみに、Shinzato C, et al. (2011)を元に、コユビミドリイシの本体と褐虫藻のそれぞれのアミノ酸合成能を表にするとこうなりますね。

コユビミドリイシの本体と褐虫藻のそれぞれのアミノ酸合成能
必須アミノ酸 合成能 非必須アミノ酸 合成能








Arginine アルギニン Tryosine チロシン
Valine バリン Proline プロリン
Isoleucine イソロイシン Serine セリン
Leucine ロイシン Glycine グリシン
Phenylalanine フェニルアラニン Cysteine システイン ×
Tryptophan トリプトファン Glutamicacid グルタミン酸
Tereonine トレオニン Glutamine グルタミン
Methionine メチオニン Asparticacid アスパラギン酸
Lysine リシン Asparagine アスパラギン
Histidine ヒスチジン Alanine アラニン

ちなみに論文では、ウスエダミドリイシやハイマツミドリイシも同じ結果でしたから、システインの合成能の欠如はミドリイシ属全般に共通して言えるのかも知れません。
結局、ミドリイシ属は褐虫藻がある限りアミノ酸に困ることはなさそうです。しかし、もし褐虫藻を抜くならシステインの確保は厳しくなるため、その場合に関してはシステインの添加は理に叶うと言えます。
でもシステイン入りのアミノ酸添加剤ってあるのかな?
但し、ミドリイシ属以外のサンゴはシステインも合成できるので特に死角はありません。

ところで、ハマサンゴのアミノ酸合成能を見ると、グルタミン酸、グルタミン、アスパラギン酸、アラニンの4つのアミノ酸は、ハマサンゴも褐虫藻もダブって合成能を持っていますが、特に酸性アミノ酸はカルシウムと結びつきやすくサンゴの骨格には非常に多くのアスパラギン酸が含まれている(Sarashina and Endo, 2006)そうなので、そこまでアスパラギン酸の合成能に余裕があるなら、あまり無理に添加する必要もないでしょう。しかも、サンゴは季節によってアスパラギン酸の合成を抑制している(Gupta, 2007)くらいなので、むしろ抑制期間は入れない方が無難かも知れません。
そもそも一般的なアミノ酸添加剤にはアスパラギン酸は入っているのかな?

そして最後に、この論文のAmino acid biosynthesis pathways in Porites holobiont (ハマサンゴのアミノ酸生合成経路)の項に比較的重要な記述があるのでご紹介しておきます。

Bacteria, plants, and many fungi are able to synthesize all of the 20 amino acids commonly found in proteins

(バクテリア、植物、多くの菌類はタンパク質から見つかる一般的な20のアミノ酸をすべて合成することができる)

The issue of amino acid requirements is complicated by the presence of symbiotic algae

(共生藻の存在次第でアミノ酸の要件の問題は難しくなります)

そうです。海洋にはごく微量のアミノ酸が含まれていますが、それらはバクテリアや海藻・藻類などのアミノ酸合成生物による生成物を由来としたものです。もちろんサンゴのミューカスにも含まれています。よって、そもそもの海洋のアミノ酸の起源はこれら海洋生物なのだと言うこと、そしてあくまでも彼らは使う側ではなく作る側だと言うことを理解しなければなりません。もちろん、自身の蛍光タンパクや色素タンパクの合成等にも使われ、その余剰分がミューカスとして放出されている、と言うことなのです。前回書いた海水からのアミノ酸取り込みについても、あれはあくまで窒素源としての取り込みにすぎません。
また、褐虫藻は植物同様すべてのアミノ酸を合成しますが、サンゴはシステインや一部のアミノ酸の合成能を欠く場合があり、そのため褐虫藻の存在次第でサンゴの要求確保が困難になり得る、と言うことにもなる訳です。

実際の水槽でのアミノ酸生合成経路

尚、アミノ酸合成生物は水槽にも多数存在します。やはり海洋同様にバクテリア、藻類、そしてサンゴと褐虫藻です。あとはアミノ酸の材料として魚等の排泄物や残飯等のデトリタス由来のタンパク質と少しのアンモニアがあれば、水槽内でもアミノ酸が生産される機会は十分にあると言うことになります。
ところが、水槽環境の条件次第では、合成が困難にもなり得るのです。
例えば、

  • 魚を入れてない → 排泄物がない
  • 無給餌 → 残飯が出ない
  • 砂を入れてない → バクテリア不足
  • ライブロックがない(or 擬岩) → バクテリア不足
  • 超低栄養塩 → 藻類の絶対量不足

さすがにここまでの条件が重なれば、水槽内でのアミノ酸生産は期待しづらくなるでしょうし、その上でサンゴから褐虫藻を奪うなら、もはや添加剤に頼るしか無さそうです。
では、添加剤によって海洋のアミノ酸レベルを維持すれば、褐虫藻を奪われたサンゴの生命維持は本当に叶うのでしょうか?

いいえ。よく考えてみてください。
それで事足りるなら、そもそも自然下の白化サンゴは死んでませんよね?
なぜ白化したサンゴの大半は斃死していくのか?
海水中に十分なアミノ酸や栄養素があるというなら???

逆に言えば、自然下でさえ止まらない白化によるサンゴの斃死を、それを一部に偏ったアミノ酸や栄養を添加しただけで本当に救えるのでしょうか?
さらにはサンゴの消費量も判らず濃度すら管理しようがない中で、そもそも何をどれだけ入れれば海洋のアミノ酸レベルが再現できるのでしょうか???

■サンゴの白化による弊害

  • アミノ酸を含め褐虫藻から得るはずの栄養素がすべて満足に受け取れない
    → 根本的な成長が鈍化し、あらゆる生理に悪影響を及ぼす
  • アミノ酸が足らずに蛍光タンパクを正常に形成できない
    → UV防御も疎かになり、抗酸化作用も衰退していく
  • 外敵やゴミを払おうにも、ミューカスを生産する余力がない
    → 免疫低下も相まって感染症にも弱くなる
  • 管理不能な添加剤によって海水中の水質バランスがデタラメに…
    → 水槽内の生態系がいつどう破綻しても不思議ではない

結局、自然下では白化後は比較的速やかに褐虫藻を取り戻さないと、上記の理由によりサンゴはどんどん衰弱し、いずれ死を待つのみとなります。これが、自然界でさえ水質だけでは褐虫藻の代役をこなすことができない何よりの証拠です。

また、サンゴが消費すればともかく、消費が細ければ水質バランスは日々崩れていきます。特にアミノ酸は窒素源であり窒素はアンモニアの元です。例えば、窒素固定(アンモニア合成)は土壌の根粒菌が有名ですが、海洋でも光合成細菌、嫌気性細菌、シアノバクテリア等、ニトロゲナーゼ酵素を持つ細菌にとっては朝飯前の反応です。もしそれらが存在するバクテリアリッチな環境で、且つアミノ酸の過度の残留や過剰添加があった場合、アンモニア濃度の急上昇によって予期せぬ事故も起こりえるのです!

大事なことなので2回言います。

アンモニア濃度の急上昇によって予期せぬ事故も起こりえるのです!

添加剤をよく使われる方は、普段から入念な観察を心がけ、少しの予兆も見逃さないように注意してください。効果を急ぐあまり、つい過剰に添加しがちですが、それは絶対にダメです。時には諦める勇気も必要です。どうか大切なサンゴや魚を無駄に死滅させることのないよう、慎重な運用を心がけてください。

結論:サンゴから褐虫藻を奪うべきではない!
そもそも褐虫藻を抜くから話がおかしくなるのです。。。

以上がサンゴと褐虫藻のクリティカルシンキングです。
何億年も受け継がれてきたサンゴと褐虫藻の関係を、そう簡単に添加剤に置き換えられるものではありません。あくまでも添加剤は栄養補給の補助でしかないのですから。。。

ちなみに僕は、褐虫藻を増やすも減らすもサンゴの自由に任せてあげたい派です。
だって、そもそも褐虫藻の量はサンゴが必要に応じて制御してるのに、それを人間の身勝手な欲望や解釈で一方的に奪おうなんて、その行為自体が傲慢な思い上がりでしょう?
言葉は悪いけど、それじゃまるで奴隷と支配者ですよ。。。
僕の理想は、サンゴの声に耳を傾けながら、あくまでもサンゴの望む結果として、色揚がりを同じ目的として共有したいです。
だから、それで茶色いなら、それがその子の選んだ道なのでしょう。
その環境に合わせた、ね。
それが尊重できないなら、生き物を飼うべきではないと思うのです。。。

次回は、サンゴの蛍光タンパクとアミノ酸です。

■リファレンス

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論考2:サンゴのアミノ酸取り込みの意味

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クリティカルシンキング第ニ回目は、サンゴのアミノ酸取り込みの意味についてお送りします。

  1. 論考1:サンゴと褐虫藻の問題提起 - 2015/2/19
  2. 論考2:サンゴのアミノ酸取り込みの意味 - 2015/2/20
  3. 論考3:サンゴのアミノ酸生合成
  4. 論考4:サンゴの蛍光タンパクとアミノ酸

サンゴが褐虫藻から光合成産物を受け取りエネルギーとしていることは言わずもがな。
しかしその内訳はなかなかに複雑です。
例えば、上記リンク先にも記した”海洋微生物の分子生態学入門”によれば、

  • サンゴは全エネルギーのうち
    70%を褐虫藻に依存
    17%を動物プランクトンの捕食に依存
    13%を溶存態有機物DOMや細菌の摂取に依存
  • 褐虫藻は自身が合成した光合成産物の90%をサンゴに渡す
    サンゴはそのうち48%をミューカスとして体外へ放出

とあります。
また、藤井(2011)によれば、

  • 褐虫藻は合成有機物の95%以上をサンゴに渡す (Muscatine et al., 1984)
  • サンゴは必要な炭素源の90%を褐虫藻に依存

とあります。
しかし、窒素源の経路については複雑で、まだ完全には解明されていないため、サンゴの飼育実験から窒素源の解明を試みた検証結果(藤井, 2011)を、以下に簡単にまとめてご紹介します。詳しくは論文の15P以降をご覧ください。

* 各リファレンスは記事の一番下にあります

アミノ酸窒素安定同位体比を用いた造礁サンゴの窒素源の解明 より要約
2-6. 造礁サンゴの飼育実験

ユビエダハマサンゴとオトメミドリイシを用いて、A,B,Cの3パターンの比較実験を行い、窒素源の光合成からの経路と捕食からの経路を比較する。
A : 日光に当てるが餌も与える
B : 日光には当てるが餌は与えない
C : 完全遮光し餌は与える

ユビエダハマサンゴ ・・・ 捕食なし → 実験終了
オトメミドリイシ ・・・ 捕食あり
A,Cで捕食によるアミノ酸δ15N濃度上昇、特に遮光されたCで大きく上昇
Falkowski et al., (1984)によれば「暗所では捕食依存率が60%」とのこと
Bは捕食無し

この実験では、アミノ酸窒素安定同位体比手法としてδ15Nを持つアルテミアを窒素源として捕食させ、アミノ酸にどれだけ15N濃縮が起こるかを検証しています。この実験により、サンゴは褐虫藻からの不足分を捕食から得ていることが判りました。

そして、窒素源の取り込みに関して、4Pには以下の記述があります。

サンゴ組織は独自の合成系によってNH4+を利用してアミノ酸を合成していると考えることもできる (Fitzgerald and Szmant, 1997)

そして、19Pにも以下の記述があります。

サンゴ組織と共生藻はともに海水中からNH4+やDON(尿素やアミノ酸)を取り込んで窒素源として直接利用できることが知られている (Kawaguti, 1953、Muscatine et al., 1979、Grover et al., 2008)

また、24Pにもこのような記述があります。

サンゴが下水や河川水に含まれる高いδ15Nを持つNH4+やNO3-を窒素源としてアミノ酸を合成しているからであると考えられる (Heaton, 1986)

そうです。もうこの辺でお気づきだと思いますが、捕食によって得たアミノ酸も、海水中から得たアミノ酸も、あくまでもサンゴが窒素源として得たものだということです。それは、アミノ酸としては利用されず、分解されて窒素として利用されることを意味します。さらにその窒素は、サンゴや褐虫藻がアミノ酸を合成する際にも再利用されています。
また、光合成が十分なら捕食への依存度が下がることも上の実験から示されています。従って、海水中からの窒素源取り込みに関しても、無理にアミノ酸にこだわる必要はなく、アンモニアでも硝酸でもそれなりの栄養塩さえ海水中に存在するなら、それだけで窒素源としての要件は十分に満たされると思われます。

そしてもうひとつ、これらの窒素源をどんな比率で取り込んでいるか、Renaud Grover, et al. (2008)のグラフを見てみましょう。

窒素取り込み (Renaud Grover, et al., 2008)

* Renaud Grover, et al. (2008)より引用
(NH4:アンモニウムイオン/NO3:硝酸イオン/DFAA:溶存遊離アミノ酸/Urea:尿素)

これによれば、サンゴは海水中から窒素源としてアンモニウムイオン42%硝酸イオン34%アミノ酸21%の比率で取り込んでいることが判ります。
ま、仮にこれを窒素源ではなくアミノ酸のまま利用すると仮定して見ても、どんなに最大で見積もっても、褐虫藻からドーンと受け取るアミノ酸量と比べて、エネルギー全体の僅か2.7%(13%×21%)に過ぎません。また、全体の17%を占める動物プランクトンの捕食でさえ光合成が十分な時に重要度が下がるならば、それより低い13%の窒素源取り込みに含まれる21%のアミノ酸の重要度は果たして?
と言う話。

さらに、田中(2012)から以下のことが判ります。

  • 褐虫藻は溶存無機炭素DICやNH4/NO3や栄養塩から有機物を合成し大部分をサンゴへ渡す
  • NH4/NO3の吸収の大部分とPO4の吸収は褐虫藻によるもの
  • サンゴが捕食した動物プランクトン由来の窒素やリンは褐虫藻に渡されるが、その制限によりサンゴは褐虫藻密度を制御している
  • サンゴは日常的に光合成産物由来のミューカスを放出している

引用しようと思ったらあまりに膨大になったので、詳しくは論文をご覧ください(笑)
上記以外にも、栄養の取り込みに水流が大切だったり、鉄イオンが褐虫藻を増加させたり、リンがアンモニアや硝酸より過剰になると石灰化が阻害されたり等、とても有益な情報が詰まってるので熟読をオススメします。

で、以上のことからざっくりとサンゴの全エネルギー源をグラフ化するとこのようになります。

サンゴの全エネルギー内訳

サンゴは、動物プランクトンや各種窒素源を取り込み、それら由来の窒素とリンを褐虫藻に渡します。褐虫藻はそれらを元に光合成からグリセリン、グルコース、各種アミノ酸を合成しサンゴに渡しています。これがサンゴと褐虫藻の共生関係です。そもそもサンゴは褐虫藻から相当のアミノ酸を受け取っており、且つ自身でもほぼ全ての合成が可能であるため、ただの窒素源としての僅かなアミノ酸の取り込みの意味を履き違えると混乱の元です。また、サンゴは窒素やリンを内部にプールし褐虫藻に渡す量を制限しており(田中, 2012)、結局どの方法で窒素源を取り込むかは、藤井(2011)からも判るとおり状況に応じて臨機応変だと考えられます。そしてそれは、乱暴に言えばどれでもOKなレベルであり、 必しもずアミノ酸を2.73%取り込まなければならない、と言う固執はないのです。窒素源になるものはたくさんあるのですから。

もしどーしても、窒素源としてではなく本当にアミノ酸としての利用を目的として取り込むケースを考えた場合、確かにサンゴにとっても、アミノ酸合成に掛かる代謝負担を負うより、そこにあるならそのまま取り込んで利用した方が効率が良いので、優先的に取り込むことは確かです。しかし、無いなら無いで、必要なら作るまでです。そのために褐虫藻とサンゴに備わったアミノ酸合成能です(次回参照)。その上で、もし本当にそれでも褐虫藻と自身の生産量だけで足りないのであれば、サンゴはもっと外部からの取り込み量を増やすはずです。しかし、そもそもサンゴは褐虫藻から得た光合成産物の約半分(48%)をミューカスとして体外へ放棄しているくらいです。海水から取り込んだ僅か2.73%のアミノ酸に執着するくらいなら、放棄するミューカスを削れば良いだけのこと。最悪は、放出したミューカスからいくらでも回収は可能です。何がどれだけ取り込めたのか判らない2.73%より、褐虫藻からは全てのアミノ酸をたっぷり受け取っているのです。それらの有り余るアミノ酸を無視して、ごく僅かな2.73%のアミノ酸だけに焦点を当てて添加剤の有用性を訴えるようなことがもしもあるなら、それはとても滑稽でナンセンスな行為だと言えるでしょう。
従って、アミノ酸の添加は決して否定はしませんが、積極的にガンガン入れるものでもないということです。しかも的外れに添加しても意味がありません。例えばシステインが必要なのにアスパラギン酸を入れても仕方がないと言う事です(次回参照)

しかし、サンゴから褐虫藻を奪った場合、褐虫藻から得られなくなったものをすべて添加剤によって補填しなければなりません。その場合は相当な数の添加剤に翻弄されるでしょう。なぜなら、蛍光タンパクや色素タンパクの形成を考えてもアミノ酸は20種全て必要ですし(次々回参照)、炭素源やその他褐虫藻が渡すはずだったものをすべて補わなければなりません。もちろん過剰添加は禁物ですし、水質バランスの均衡を守らなければなりません。
サンゴから褐虫藻を奪った責任に於いて、これらを確実に供給できますか?

次回は、サンゴのアミノ酸生合成について。
サンゴと褐虫藻が如何に自分でアミノ酸を作れるかご紹介します。

■リファレンス

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論考1:サンゴと褐虫藻の問題提起

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クリティカルシンキング(批判的思考/論理的思考)と題してシリーズでお送りします。
第一回目は序章としてサンゴと褐虫藻の問題提起です。
アクアに関わらない世間の方にも広く知って欲しい内容です。なるべく拡散希望です。。。

  1. 論考1:サンゴと褐虫藻の問題提起 - 2015/2/19
  2. 論考2:サンゴのアミノ酸取り込みの意味
  3. 論考3:サンゴのアミノ酸生合成
  4. 論考4:サンゴの蛍光タンパクとアミノ酸

サンゴのイジメ、ダメ。ゼッタイ。

昨年11月に開催された第17回サンゴ礁学会に参加してからと言うもの、サンゴ飼育に対する姿勢や考え方がより固まったと言うか、とにかく強い確信と使命感に駆り立てられるようになった今日この頃です。それほどこのイベントには大きな影響を受けました。
そしてそれは記事を書く姿勢にも大きく関わり、僕に限らず、ネット上で公開する情報には確かな検証データに基づく論理的な考察が如何に重要かを、今まで以上に意識するようになりました。迂闊な情報や根拠のない理論、ましてや感情論などで決して無責任にアクア業界の発展を妨げないよう、自分の能力の範囲で責任感を持って丁寧に慎重に努めていきたいと、烏滸がましいながらも決意も新たに気を引き締めているところです。

まず、今回のサンゴ礁学会で一番強く感じたことは、

サンゴの研究=褐虫藻の研究である

と思えるほどに、褐虫藻の研究が盛んだったと言うことです。数えてみたら、口頭発表とポスター発表のうち直接的なサンゴの研究が約50あり、そのうち20以上の研究に褐虫藻や白化が関わっていました。また、次世代シークエンサーによるDNA解析が取り入れられた研究も多く見られ、大変興味深く時代を感じました。

  • サンゴが如何に褐虫藻に依存した生き物であるか
  • サンゴが褐虫藻から何を得ているか
  • なぜ白化は起こるのか
  • なぜ白化すると斃死に繋がるのか

このように知れば知るほど、サンゴと褐虫藻は決して切り離せない密接な関係であることを思い知ることになります。一見当たり前のようで、しかし近年のマリンアクアリウムに於いてそれが当たり前ではなくなってしまっている現状に、強い違和感を覚えました。

元々僕は、以前から度々こぼしているように、人為的に褐虫藻を抜いてパステルを目指すZEOvitのようなシステムがあまり好きではありませんでした。特に明確な理由があった訳ではありませんが、なんとなく好みと言うか、ただ漠然とそう感じていたのかも知れません。あるいは、僕の色彩感覚的にそれを成功と呼べる水槽になかなかお目にかかれなかったことも要因の一つかも知れません。
でも、ヨッシー氏のZEOvit水槽は綺麗だったなぁ。。。畳まれたのは本当に残念でした。

ZEOvit ヨッシー水槽 1

ZEOでも褐虫藻量と波長次第で蛍光タンパクはギラギラできるんですよ♪

ZEOvit ヨッシー水槽 2

でも、そもそもZEOvitって難しいですよね。。。
今回、サンゴと褐虫藻の密接な関係を再認識して、余計にそう思いました。
また、サンゴ礁学会で研究員の方々と雑談した際に、褐虫藻の話の流れで人工白化の話をしてみたら、皆さん顔をしかめておられました(汗)

念のため、マリンアクアリストではない方のために、簡単な解説をどうぞ。

ZEOvitシステムによるサンゴ飼育の仕組み
ゼオライトや時には薬品を用い、サンゴから強制的に褐虫藻(共生藻)を排出させることで、サンゴから褐色が抜け、全体的に明るいパステル調の色彩が得られると言う飼育理論。しかし、サンゴは栄養のほとんどを褐虫藻の光合成産物に依存しているため、その不足分をすべて各種添加剤で補わなければならない。とは言え、それらがサンゴにどれだけ消費され、海水にどれだけの濃度で推移しているか大半は知る術も無く、また成分不明なモノやあまりに多い種類数に翻弄され、日々の水質管理は極めて困難を極めると言える。そのため、なかなか成功例にお目にかかれないのが現状。但し、褐虫藻を抜かない方向で運用される場合もあり、好みは分かれる。

実際に薬品を使って強制的に褐虫藻を抜いた例がこちらです。

ZEOvitの薬品(Spur2)を使って褐虫藻を抜いた例

* トミー氏の検証記事からお借りしました(了承済み)

これはZEOvitのSpur2と言う薬品に0.5~1時間程度薬浴させたものです。本来は水槽にごく少量を添加して運用するものですが、巷には直接薬浴させる裏技(汗)があるそうで、せっかちな人を中心に広まっている?ようです。。。うーむ。。。
ただ、やればやるほど褐虫藻は抜けるので、欲を掻いて引き際を誤ると数日後には斃死、なんてケースもネット上ではよく見受けられます(汗)

あぁ。。。
もっと早くに警鐘を鳴らすべきでした。。。
関係各方面でこぞってサンゴの調査研究に取り組まれ、サンゴの保護や移植放流活動の重要性・必然性が叫ばれる中で、、、

  • 褐虫藻を抜けば褐色がとれて色素だけの綺麗なパステル調の色彩が作れる?
    いくら綺麗にしたいとは言え、あまりに身勝手な人間のエゴの最たるモノでした。。。
  • ポリプがフサフサ伸びて綺麗? それって本当にサンゴの喜びの声ですか?
    褐虫藻から得るはずの栄養を絶たれ、まさにもがき苦しむ小さな手に見えませんか?
  • 褐虫藻を強奪され人工白化したサンゴはいつ転んでもおかしくない状態!
    添加剤だけで褐虫藻のすべての補填が叶うはずもなく、そのうちポリプも沈黙し。。。
  • これはただの生体実験・虐待行為では?
    動物愛護の観点から見れば、こんな悲しいペットへの仕打ちはあり得ませんよね。。。

本来サンゴを一番愛していなければならなかった我々が、まさかこんな飼育術に手を染めてしまっていたとは。。。一体これで今までどれだけのサンゴが死んでいったのだろう。。。

人工白化に対して今までどうにも釈然としなかった感覚、、、これが答えだったんだ。

でもこれはあくまでも僕目線での答えです。この考えを皆さんに押しつける気はありません。実際に褐虫藻を抜くにしても、恐らく軽い気持ちから、決して悪意はなかったはずですし。
それに、実際に何名かのZEOvitユーザーの方に聞いてみたところ、「添加剤は使うけどゼオライトや薬品で褐虫藻を抜いたりしない」と言う方もおられました。そのようなサンゴに優しい運用方法であれば大賛成です。僕も以前からオススメしてきました。
しかしそうでない方にとっては、この答えはとても批判的に映ったかも知れませんし、不愉快な気持ちにもさせたかも知れません。その点についてはお詫びします。

でも、せっかくの機会ですから、一度だけ、少し立ち止まってみませんか?
サンゴの色揚げって、サンゴの命を削ってまですることなんだろうか?と。
今回のシリーズは学術的にも最新の情報で構成していきますから、古い情報や間違った情報を上書きするチャンスです(笑)。その意味でも、どうか知識の糧に読み進めていただければ幸いです。
その上でまだ褐虫藻を抜く色揚げにご興味があるなら、その時はもうお引き止めしません。
ただ、将来的にサンゴの飼育が禁止されないことを願ってやみません。。。

次回は、サンゴのアミノ酸取り込みの意味について。

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