今日は唐突にLEDの特性をおさらいしてみたいと思います。
でも相変わらず長文なので(汗)、先に結論だけ見せておきます(曝)
長文や技術的なことが苦手な方はそのまま結論だけ覚えておいてください。
いずれ投稿される記事の理解に役立つでしょう。
しかし、頑張って解説も読むぜ!と言う方は、以下の解説表示をクリックしてください。
解説表示
LEDには大まかに、LEDチップのみの単波長LEDと、LEDチップに蛍光体を被せて蛍光波長をミックスした蛍光体型LEDがあります。前者にはUVから赤外線まで様々な波長があり、後者には主に白色LEDが挙げられますが白以外の色も作られています。
ただ、これら両者にはメリットとデメリットがあり、色や波長が同じだからと言って安易に置き換えは推奨されません。今回はその辺を説明します。
青色LED(単波長LED)と白色LED(蛍光体型LED)
まず、青の単波長LEDと白の蛍光体型LEDを比較してみましょう。
以下はCreeの最新XT-EシリーズのRoyalBlue 450nmとCoolWhite 6000Kです。
それぞれのスペクトルはこのようになっています。
上が相対スペクトルで、下が波長強度を示した絶対値です。
人間の目には白色LEDの方が断然眩しいのですが、このように実際の光強度を見比べると、白よりも青の方が断然強いことが判りますね。
しかし、白色LEDは青の単波長LEDに黄色の蛍光体を被せたものであり、青のLEDチップ自体は同じものです。なのになぜこのように光強度に差が生まれるのでしょうか?
それは、チップの波長を蛍光体によって波長変換する際に変換ロスが生じるからです。
例えば上のグラフでは、青LEDの放射束(430mW)と白LEDの放射束(386mW)を比較すると約10%もロスしていることが判ります(数値は目安*)(純粋な光の強度を比較するために光束lmではなく放射束mWを用います)。よって、LEDチップに蛍光体を載せればチップとは異なる波長を生み出せるけど、全体の波長強度は減衰してしまう、と言う事を覚えておいてください。
白色LEDと温白色LEDと電球色LED(いずれも蛍光体型LED)
お次は白色LEDのバリエーションの紹介です。
白色LEDには大まかに、
- 白色LED (CW/CoolWhite/クールホワイト)
- 温白色LED (NW/NeutralWhite/ニュートラルホワイト)
- 電球色LED (WW/WarmWhite/ウォームホワイト)
このような種類があります。
以下はCreeの最新XT-Eシリーズの上記3タイプの白色LEDです。
それぞれのスペクトルはこのようになっています。
上が相対スペクトルで、下が波長強度を示した絶対値です。
このグラフを見ればおよそ傾向が読み取れると思いますが、
- 色温度を低くするには蛍光体を濃くして青チップの波長強度を殺す
- より長波長を生み出すには青チップの波長強度をより犠牲にする
どちらも正解です。そのせいか、より効率よく波長を得るために、このXTEシリーズでは、色温度が低い白色LEDほど光源の青チップの波長を長波長へ寄せていることが判ります。CWの青チップには440nm、NWには450nm、WWには460nmを採用しているようです。こうすることで、少しでも波長変換ロスを減らそうとする工夫が読み取れますね。とは言え、それでも元の青チップの放射束から比べるとCWは約90%、NWは約70%、WWは約60%まで放射束が減衰していることが判ります(数値は目安*)。
とは言え、青チップを完全に緑に寄せてしまうと、そもそも白色ではなくなってしまう(笑)ので注意が必要です。RGBの3色が揃わないと白色には見えませんからね。ですから、あくまでも青の波長の範囲内での最適化を行う必要がある、という事です。
シアン単波長500nm LEDとシアン効果LED
シアンの単波長LED 500nmはご存じだと思いますが、シアンの色味を蛍光体で作り出すエフェクトLEDをご紹介します。青チップに緑の蛍光体を載せているので、見た目は白色LEDに近いです。
これらのLEDのスペクトルはこのようになっています。
上から順に、シアンエフェクトLEDの相対スペクトル、波長強度を示した絶対値、単波長500nmを並べたスペクトルです。
そうです。やはり白色LEDの時と同じように変換ロスが生じ、肝心のシアン500nm前後の波長強度は、単波長の500nmの半分以下の波長強度しか生み出せていません。とは言え、シアンエフェクトの場合、光源の青チップと蛍光体の波長帯域が近いので、変換ロスはまだ小さい方です。
また、このシアンエフェクトの場合、Cyan (a)は460nmチップ+500nm蛍光体、Cyan (b)は450nmチップ+520nm蛍光体ですが、やはり青チップと蛍光体の発光波長が近いほど、波長変換効率がアップするだけではなく、チップと蛍光体の波長帯域が重なった分だけ波長強度も増す、ということが読み取れますね。
ただ、どう見ても単波長500nmを使った方が手っ取り早く波長強度を得られることは明白です。目的外の余計な波長も含まれませんし。
赤系単波長LEDとピンク効果LED
続いて、ピンクの色味を蛍光体で作り出すエフェクトLEDをご紹介します。青チップに赤の蛍光体を載せ、青+赤でピンク(パープル)に見えると言う仕組みです。
これらのLEDのスペクトルはこのようになっています。
Pink (a)は440nm+620nm蛍光体、Pink (b)は450nm+650nm蛍光体です。
はい。ピンクは特に青チップと赤蛍光体との波長差が大きいため、変換ロスも大きく、Pink (a)ほど蛍光体を濃くして青チップの波長強度を犠牲にしても、微々たる赤帯域しか生み出せません。それは、やはり単波長の赤系LED 590nm/630nm/660nmを足してみるとその差は歴然です。結局、630nmの単波長LED×1ヶ分をこのピンクLEDで稼ごうと思ったら、最低でも10ヶ足さないと達成できませんでした。よほどの理由がないとそんな無駄な設計は採用しかねますね。
以上のことから、スペクトル設計をする上で、エフェクトLEDを組み合わせることは非常に非効率であると言えます。それが例えば、白色LEDのように単波長LEDが存在しない波長帯域(例えば530~590nm)をカバーできるならメリットはありますが、シアンや赤など単波長LEDが十分に存在する波長帯域の波長を得るためにわざわざエフェクトLEDを用いることは、とても無駄が多くナンセンスと言えるでしょう。それに、どのみちチップ波長自体が邪魔になって純粋に蛍光波長だけを得ることは困難ですし、どうしても無駄は生じるのです。
一般白色LEDと超高演色白色LED
最後に、青チップを使った一般的な白色LED(青+YAG蛍光体)と、UV系チップを使った超高演色白色LED(UV+RGB蛍光体)を比べてみましょう。左はCree XTE CoolWhite 6000Kで、右がCCS社の自然光LEDから取り出したUV+RGB蛍光体 5000Kです。
それぞれのスペクトルはこのようになっています。
これを見れば、UV系チップを使っての白色LEDが如何に非効率かお判りですね。
ま、このCCSのLEDは4年前のものなので、現在はUVチップもかなり高出力化が進み、出力はもう少し伸びているはずです。
しかし、それはそれでまた別の問題を引き起こします。
それは、蛍光体寿命です。
実は4年前当時、このCCS社とボルクスジャパンのコラボで自然光LEDを採用したLED製品をリリースする計画がありました。しかし、研究や試作に1年もかけたのち、結局計画は頓挫してしまいました。その原因は、蛍光体寿命の確保が困難だったからです。結局、当時で確保できたのはせいぜい20000時間でした。一般の白色LEDなら40000-50000時間と言われていた時代にです。これでは話になりませんでした。
では、なぜ蛍光体寿命が短くなるのか?
それは、光源がUVチップだからです。紫外線は物質を劣化させる天才ですからね。
当時CCSの場合、UVチップは約405nmを採用していましたが、それが仮に410nmにしろ395nmにしろ、このようなUV系チップは青チップ450nm前後と比べると、その光エネルギーたるや何倍もの破壊力を持っているのです。そのため、蛍光体はどうしてもダメージを受けてしまいます。その差が蛍光体寿命となって現れてしまうと言う訳です。日本を代表する自然光LEDの第一人者CCS社でさえそうだったのです。その後、ようやく30000時間が確保された14W型自然光LED電球がリリースされましたが、それでも一般LEDと比べると見劣りする寿命でした (この製品ものちに製造終了)
そうした経緯を経て、僕はLEDのスペクトル設計に於いて、UVチップ+蛍光体は時期尚早であり、まだしばらくは蛍光体型LEDの採用は最低限 白色LEDのみにとどめ、残りはすべて単波長LEDで構成すべきである、との結論に至りました。それが、ひいては波長強度(PPFD)の確保に繋がり、蛍光体寿命にとっても妥当である、と判断した訳です。
■過去の関連記事
- 面白いエフェクトLED - 2013/3/11
- 千石電商の各種LED素子のテスト - 2014/10/4
■測定機器
分光器:ASEQ LR1 (200-1200nm) *UV特化型につき長波長感度は弱め
積分球:OceanOptics FOIS-1
相対スペクトル測定:LR1 + Cosine Adaptor(SMA905_AD2)
絶対スペクトル測定:LR1 + FOIS-1 + Fiber with Pinhole Dimmer(DIY)
LEDの放射束:μW/nmの可視光線域(400-700nm)の積分値
* 今回の各LEDスペクトルの波長強度(絶対値)を表したグラフの縦軸のμWや、放射束値mW(μW/nmの積分値)は、放射束が明確な手持ちのLED素子を用いてスペクトロメーターのカウント値が放射束に近似値になるように積分球での減光量を調整して算定した「簡易放射束計」的な値ですから、あくまで目安程度に捉 えてください。実際の放射束計ほどの精度はありませんのでご了承ください。但し、グラフ内の各LEDのスペクトル同士の強度関係は見たとおりに解釈して問題ありません。
単波長LEDと蛍光体型LEDの結論:
- 蛍光体で作った波長強度は非常に弱いので、
目的の波長の単波長LEDが存在するならそれを使うに越したことはない
(例:シアン蛍光体LEDよりも、単波長500nmのシアンLEDを使うべし!) - UV系チップは蛍光体寿命を縮めるので、
なるべく青チップを励起源とした蛍光体LEDを使うことが推奨される
(例:UVチップ+蛍光体LEDよりも、青チップ+蛍光体LEDを使うべし!)
※但し、LED素子の製造元が一般平均的なLED寿命を保証してるならOK