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懲りずに書いてみたりする結果オーライな日記

イチゴ先生の蛍光タンパク講座

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今日は、オージーミドリイシの中でも特に大人気の
通称ストロベリーショートケーキ先生を講師に迎え、
アクアリストの目から綺麗さっぱり鱗を剥がし落としちゃう
サルでも判る蛍光タンパク講座をお届けします♪
いつものように無駄に長いけど頑張って! たかだか14000程度の文字数です♪汗

ではイチゴ先生お願いしま~す!

は~い♪

シアン蛍光タンパクが維持されたストロベリー

なんてお美しい~!!!びゅーりほ~♪

しかし、ちょっと機嫌を損ねるとこの有様です。。。

シアン蛍光タンパクが褪色したストロベリー

え?
全身ピンクに色揚がり???

♫ あ ちょと待て ちょと待て おにっさぁ~ん♪

それ、、、色下がりですぜ?汗
そうです。イチゴ先生を繋ぎ止めるには、パートナーの賢い愛が必要なのです!

これまで、限定配布のカラーレポート以外でも、蛍光タンパクの仕組みや種類などの情報はブログでも度々ご紹介してきました。中にはヒントの域を超えてズバリ答えに迫った記事もあったかと思います。きっと熱心な読者の皆さんなら取りこぼしてませんよね?
例えば新年早々のオージー特集でも結構がっつり触れてます。
なぜストロベリーがピンク(or茶色)だけになっちゃうのか?
一部の方はここで開眼されて、フルスペやバイタルウェーブと仲良くなりました(笑)

しかーし!
今もイチゴ先生に振り向いて貰えないアクアリストのために、今日は手取り足取りじっくり牛歩でレッスンを進めて参りますよ!
カラーレポート所有者も今さらと言わず、復習のつもりで読み進めてください。

■目次

  1. ストロベリーショートケーキの蛍光タンパク励起発光スペクトル
  2. 蛍光タンパクの励起スペクトルと発光スペクトルの見方
  3. 励起波長と蛍光発光量の関係
  4. シアン蛍光がグリーンに傾いたら要注意!?
  5. 巷のストロベリーショートケーキのビフォー・アフター (最終章)

ストロベリーショートケーキの蛍光タンパク励起発光スペクトル

今日はストロベリーの蛍光タンパクの励起発光スペクトルをサンゴカラーレポートから特別に講義向けにグラフを見やすく描き直してお見せしちゃいます!

まず、カラーレポートVOL.1から、ストロベリーの蛍光タンパクの励起発光特性です。

ストロベリーショートケーキの蛍光タンパク (カラーレポートVOL.1より)

続いて、カラーレポートVOL.3からも、別個体のデータをお披露目します。

ストロベリーショートケーキの蛍光タンパク (カラーレポートVOL.3より)

もし、コレだけ見て理解できてる方は、これ以上読み進める必要はありません。
多分、すでにイチゴ先生とイチャイチャされてる方でしょう♪
早く家に帰ってラブラブしてください(笑)

ストロベリーショートケーキは、ベースに強いシアン蛍光タンパクCFPをまとい、さらにポリプのサンゴ体のひとつひとつにレッド蛍光タンパクRFPを持つことにより、非常に美しいストロベリー特有の色彩を放ちます。この2つの蛍光タンパクは独立した異なる蛍光タンパクで、それぞれの励起波長も大きく異なります。CFPは400-420nmのUV域の波長にもっともよく反応して発光します。RFPは500-520nmの緑の波長にもっとも反応し発光します。例えば、主な人工光源には必ず青の波長も緑の波長も含まれますから、大抵の光源下でRFPが光らないことはありません。しかし蛍光灯や白色LEDにはUV域の波長はあまり多く含まれないため、そうした光源下の場合、CFPは強く発光できません。このことからも、RFPよりもCFPを発光させることの方が難しいことがお判り頂けると思います。

では引き続き、これらのグラフの見方を解説していきます。

蛍光タンパクの励起スペクトルと発光スペクトルの見方

今日はホントの初歩的なところから攻めていきますよ!
今日こそ蛍光タンパクのスペクトル特性の見方を習得しましょう♪

まず、以下のグラフは、オージーサンゴでもメジャーなシアン蛍光タンパクの励起スペクトルと発光スペクトルの特性を示した見本です。それぞれの曲線の意味、判りますか?

蛍光タンパクの励起スペクトル特性と発光スペクトル特性

恐らく、左の破線が励起スペクトル、右の実線が発光スペクトル、その辺は何となくお判りかな?と思います。でも、実際のところ、これをどう解釈して蛍光タンパクの発色や維持に繋げたら良いのか? そこが難問ですよね?
そこで、そもそもの励起スペクトルと発光スペクトルの算出方法を解説しましょう。

まず、光強度を揃えたいくつかの波長を用意します。
例えばシアン蛍光タンパクの場合、励起(反応)する波長は主にUV域なので、仮に380nm/400nm/420nm/440nmの4種類の波長を用意したとします。
そして、その波長を順にシアン蛍光タンパクに当てていきます。
すると、波長毎に下図(上)のような発光強度のスペクトルが発光したとします。

蛍光タンパクの励起波長毎の発光量

この時の発光スペクトルを波長別に色分けして重ねると上図(下)のようになります。
蛍光タンパクの発光スペクトルは、励起波長によって発光強度こそ違いますが、カーブ形状自体はほぼ同じです(厳密にはピーク前後の波長強度分布に相関が見られる)
よって、まず発光スペクトルはこの時点で決定となります。

発光スペクトル:
励起波長に反応し発光した光の波長分布を表した特性である。

次に、各励起波長毎に発光強度をマーキングしていくと、大雑把な折れ線グラフが描かれていくのが判ると思います。これが励起スペクトルを構成する骨組みです。

蛍光タンパクの励起波長毎の発光量を元に励起スペクトル特性が割り出される

要するに、各波長を順に照射していき、その波長毎の発光強度をマーキングしていけば、励起スペクトルになります。波長を細分するほどより滑らかなカーブが得られます。

励起波長毎の発光量を折れ線グラフ化したものが励起スペクトルである

とは言え、例えば1nm刻みの励起スペクトルを得ようと思ったら、400nm、401nm、402nm、、、と果てしなく光源を用意しなければなりません。もしそれで400-800nm間を走査しようと思ったら、400ヶの光源が必要です。波長可変レーザーでもあれば別ですが、それを個人で所有するのは無謀です(汗)
なので、あくまでもホビー向けに妥当な範囲で、僕の場合は370nm/400nm/425nm/450nm/475nm/500nm/520nm/595nm/630nm/660nmの10種類の波長のLEDを用意してサンゴの蛍光タンパクの発光スペクトルと励起スペクトルを調べています。そうして調査したストロベリーの蛍光タンパクの特性が先ほどのデータという訳です。

励起スペクトル:
蛍光タンパクの発光量を励起波長毎に記録しグラフ化した特性である。
当然、そのピーク波長を当てることが最大発光量を得る上で重要である。

励起波長と蛍光発光量の関係

励起スペクトルの見方が判ったところで、お次は蛍光タンパクの励起波長と発光量の関係について解説していきます。ここ、一番重要なとこです。

先述した励起スペクトルの仕組みから、蛍光タンパクは特定の波長だけではなく、ある程度の波長範囲に対して応答していることが判りました。そしてその応答の度合いは、励起波長によって異なると言うことも判りました。このことから、蛍光タンパクの蛍光発光量は、励起波長がすべて照射された場合に最大となり、励起波長に偏りや欠落があると自然下並の発光量が得られないと言う事になります。なぜなら蛍光発光の総量は、単純に励起波長による発光量が積算されたものだからです。

以下に、

  • 自然下の海中スペクトルに対するシアン蛍光タンパクの発光総量
  • 400-420nmリッチな光源に対するシアン蛍光タンパクの発光総量
  • 400-420nmが不十分な光源に対するシアン蛍光タンパクの発光総量

の3パターンをグラフで表しました。
ストロベリーの実測値(カラーレポートVOL.1)から得られた発光量の割合を数値化して、各励起波長(370nm/400nm/425nm/450nm)毎に割り当て、励起波長の有無に応じて全体の発光量がどう変化するか説明していきます。

蛍光タンパクの発光量は励起波長毎の積算発光量である

* 数字は励起波長毎の発光の割合をイメージしたものです

ここではまだ蛍光タンパクの維持については考察する必要はありません。単純に観賞性の問題として、光源により本来の蛍光発光量が得られるかどうかを考察してください。

まず、自然下の場合は必要な励起波長が全て満たされるため、発光量は最大の18が得られ、これが本来のそのサンゴの蛍光発光量となります。
次にUVリッチな光源では、400-420nmによる発光量は確保されますが、370nmによる発光量は得られません。よってその分が減算された15の発光量となりますが、まずまず自然下に迫る発光量が確保されています。
しかしUV不足の光源では、450nmによる発光量2は確保できますが、370nm/400nmによる発光量は全く得られず、あとは420nmの波長強度次第となり、この例では巷のLED製品やT5蛍光灯のような420nm量をイメージして発光量を3としましたが、もしこれが完全な青白LEDスペクトルだったりActinic無しのT5蛍光灯だった場合、もっと低くなるでしょう。そうなると、450nmだけでは十分な発光が得られず、自然下で見えた蛍光色は再現されないことになります。ただ逆に言えば、450nmによる発光量だけは最低限確保される、とも言えます。お使いの照明次第では、今見えているシアン蛍光の量はギリギリ450nmによる発光量だと言うことです。

これでお判りの通り、サンゴ照明には蛍光タンパクの励起波長が少しでも入っていれば良い、と言う解釈は完全に誤りということになります。確かに一部でも励起波長が光源に含まれれば、その分の蛍光発光は得られます。しかしそれでは不十分です。今一度、上図(下)をよく噛みしめてください。これでは本来の蛍光発光量が得られないのです。良くて自然下の半分、多くは1/3以下でしょう。これは光化学なのです。
とは言え、そんなUV不足な光源ですら、購入当初は450nmだけでもギラギラに発光して見えます。ということは、自然下の波長構成を当てたら(UV域を補ったら)、それこそ本来はとんでもない発光量で光り輝くと言うことになるのです。特にオージーの蛍光タンパク量は目を見張るモノがあります。
そして、蛍光タンパクのうちブルー蛍光タンパクBFPシアン蛍光タンパクCFPは、サンゴにとってUV防御も兼ねた非常に重要な存在です。そしてそれは必然。UVがなければ自然下並のUV防御の必然性は失われ、あとは褪せるのみです。そう、この仕組みこそが蛍光タンパク維持に関する最重要ファクターです。自然下と同等のUV量が確保されてこそ維持される蛍光タンパク量、それを怠ればサンゴも蛍光タンパクの形成を放棄する、という流れです。ま、サンゴにとっては無駄なコストが省けて有り難いところでしょうが(笑)

シアン蛍光がグリーンに傾いたら要注意!?

結果、UVが不十分な場合、最低450nmで確保されていた発光量もいずれ衰退する可能性はあります。なぜなら、その450nmでの発光量は、対UVに備えて構築されていた豊富なシアン蛍光タンパク量がまかなっていたモノです。それはあくまでも励起波長全体が十分に確保されていた時に確認された発光量であり、その励起波長の主要部分が消失したあとも維持が保証されるモノではありません。そもそも破壊的なUVエネルギーをシアン(500nm前後)に波長シフトさせるUV防御システムの必然性に比べれば、UVより遙かに被害の少ない450nm以降のブルー光をしかも少しだけ長波長のシアンへシフトさせる必要性は、限りなく低いと言えるでしょう。それをなおも維持しようとするかどうか、あとはサンゴの判断に委ねられるのではないでしょうか。ま、仮に維持されても450nmでの発光量は知れてますが。。。
特にシアン蛍光がグリーンに傾く場合、励起波長のピークとその単波長側の励起波長が大きく不足している可能性がとても高いです。これは上でも少し触れた励起波長と発光波長の相関による現象で、叩く波長と表れる波長はシンクロしていて、より短波長側で叩くと発光波長も短波長寄りで発光し、より長波長側で叩くと発光波長も長波長寄りで発光する現象です。
以下は特にそれが顕著だったオージー産ハナサンゴのシアン蛍光タンパクCFPの励起波長毎の発光スペクトルです。

ハナサンゴのシアン蛍光タンパクの発光スペクトル

400nmに対する反応はよくあるCFPの発光スペクトルを示しますが、励起波長が高くなるに伴い発光スペクトル内の波長分布がグリーンに傾いていき、まるでGFP(グリーン蛍光タンパク)のような発光スペクトルになっていく様子が観察されました。
これらのことからも、UVが不足しているブルー主体のスペクトルでは、CFPがGFPモドキに傾いてもなんら不思議ではないわけです。あるいは、GFPに移行する子もいたりして?
もしやあなたのシアン蛍光、なんかグリーンになってませんか?

ちなみに、サンゴのUV防御は主に2つあり、ひとつはMAAs(マイコスポリン様アミノ酸)で、もうひとつがこの蛍光タンパクです。MAAsは主にUV-Aのうち310-360nmを吸収し、蛍光タンパクは僕の実験からも判るように下は370nmから長波長シフトを行っています。いずれもUVストレス量に応じて密度が増加することが実験結果から判明している通り(Ferrier-Pagès et al. 2007) (Yuyama et al. 2012)、UV量の制御によってサンゴの蛍光タンパクが維持できることは、我々アクアリストにとっても今や周知の事実です。
また、特にオージーは蛍光タンパクを高密度で持っているので、その形成には大量のアミノ酸を必要とし、そのアミノ酸を合成するためにも褐虫藻は非常に重要です。アミノ酸に関しては誤解のないように以前の論考シリーズをご覧ください。

  1. 論考1:サンゴと褐虫藻の問題提起 - 2015/2/19
  2. 論考2:サンゴのアミノ酸取り込みの意味 - 2015/2/20
  3. 論考3:サンゴのアミノ酸生合成 - 2015/2/21
  4. 論考4:サンゴの蛍光タンパクとアミノ酸 - 2015/2/22

巷のストロベリーショートケーキのビフォー・アフター (最終章)

ストロベリーをお持ちの方は、なるべく定期的に写真撮影をしておくと良いです。
どんなに「色維持できてるぜ!」「色揚がったぜ!」と思っていても、購入時の写真を見るとハッと我に返る場合があります(笑)
また、シアン蛍光が褪せてレッド蛍光が増えてきた個体に対し「好きな色だ!」と思うのは自由ですし、色彩の好みを否定する気はありませんが、それを「色が維持出来ている」と言う表現にすり替えたり、「ストロベリーにはUVは要らない」と言い切ってしまうと、それを見たビギナーさんの成功への近道を妨害することになり兼ねないので、安易な発言は慎むよう注意しましょう。また、水質が重要なことは今さら言うに及ばず当たり前のこと。一方、蛍光が発光するのは励起波長による光化学現象だと言うことを理解しましょう。

ところで、ストロベリーの色揚げに関して、成功例と失敗例を示そうとネットをウロウロ探しましたが、失敗例がなかなか見つからない。。。多くの場合、購入時の綺麗な写真はあるけど、その後の経過が不明です(汗)
そんな中、彼はエライです。ちゃんと経過を報告されてます。エーエイト氏です。
有り難くビフォーアフターの写真をお借りしました。

A8氏のストロベリー

彼は海外からUV入りのLEDライト(バータイプ)を取り寄せて試していたようですが、他のサンゴへの影響もあるため、なかなかピンポイントで狙えなかったようです。ビーム角が広すぎたのかな? こんな時こそズバリ狙えるスポットがお勧めなんだけど。。。う~ん、残念。
ま、そもそもこのLEDバーがちゃんと出力が出てたのか、はたまた波長も正しかったのかどうかも判りませんから、今となっては何とも評価しがたいところです。
また、半年経過の割にほとんど成長が見られないので、何か他にも要因があったのか、あるいは元々調子の悪い固体だったのか???
ただ、ZEOvitやT5蛍光灯下ではこのパターンは非常に多く見かけます。それもそのはず、基本的にZEOvitは蛍光タンパクに関するノウハウがゴッソリ抜けてるように思います。

一方、成功例としてはたらふく氏をご紹介します。購入時の記事半年経過の記事

たらふく氏のストロベリー

角度は違いますが、上の記事をご覧頂ければその変化は判ると思います。
蛍光シアンの維持もさることながら、それ以上にピンクチップの色揚がりが秀逸!

そんな彼の秘密兵器は、ご存じバイタルウェーブ・バイオレット!!!
しかも、度々イチゴ色揚げ機と連呼されてるので、売上げ伸びたんちゃうのん?笑
それもそのはず、バイタルウェーブにはKRと同じ最高ランクのLED素子が受け継がれているので、性能に疑う余地はありません。もちろん、PSE適合製品です。
波長も出力も太鼓判だから、安心して使えますね♪

バイタルウェーブ・バイオレット

今、手持ちのバイタルウェーブ・バイオレットのスペクトルを測ってみました。
主要LED素子は、UV 400nmとViolet 425nm。450nmはあくまでも安全用です。
ホビー用途でここまで厳密な波長が管理されている製品は他にないでしょう♪テヘ

バイタルウェーブ・バイオレットのスペクトル

よくある青白スペクトルと比較すると、UV域の補完率の高さがうかがえますねぃ~♪
先ほどのストロベリーのシアン蛍光タンパクの励起スペクトルと Let’s にらめっこ!

バイタルウェーブ・バイオレットのFP励起波長カバー率

尚、当面の間は370nmによる励起発光分は諦めてください。その僅かな恩恵には到底見合わない大きなコストを要します(曝)

最後に、たらふく氏のお気に入りショットです!

たらふく氏のストロベリーのお気に入りショット♪

ふぅ~・・・(溜め息しか出ない 笑)

■リファレンス

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