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茶ゴケ付着テストの結果

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7月始め、水槽に2枚のスライドガラスを沈めました。
あとで、付着した茶ゴケを顕微鏡で見てみようと思ったからです。
なかなか腰が重く約一ヶ月も経過してしまいましたが、先ほどようやく引き上げて調べてみることにしました。

引き上げた検体は以下のような感じでした。

テスト方法

2枚のスライドガラスをそれぞれ透明なナイロンチューブに格納し、ゴムテープでガラス面に固定し、水面直下に水没させていたモノです。但し、茶ゴケの付着と光の関係を見るために、一方には黒いゴムテープを貼って遮光しておきました。

写真を見れば一目瞭然ですが、やはり遮光したスライドガラスには、コケは一切付着していませんでした。ま、そんなもんでしょう。

続いて、それぞれを顕微鏡で観察してみました。

光有りのスライドガラス1200倍光なしのスライドガラス1200倍

左が光有り、右が光無しです。いずれも1200倍の画像です。

光を当てた方には、目視でも判るように茶ゴケがビッシリ生えていましたが、実際に検鏡してみると、繊維状のコケ(珪藻?)や粒子状の細胞(前回の茶ゴケと同じもの?)が見られました。ちなみにこれらには動きは見られません。

一方、光を当てなかった方は、検鏡でもコケらしき物体は見つけられませんでした。

但し、双方で若干の動く微生物が確認できました。

いずれのスライドガラスにも、ピコピコと動く鞭毛虫(?)のようなものが確認できました。また、遮光したスライドガラスの方では多毛類の幼生も確認できました。が、いずれも確認できたのはごく僅かでした。

以前、シュリンプさんから届いた付着性プランクトンの袋から抽出したデトリタス内には、凄い量の微生物が確認できましたが、今回の実験ではさすがにあの規模の微生物は付着していませんでした。やはり、これらの微生物はデトリタスの中のような少し嫌気的な環境の方が活動に適しているのかも知れません。

ただ、今回の実験ではむしろ遮光したスライドガラスの方が、コケの生えたスライドガラスの方よりも、若干多く付着していた感がありました。大した差ではないので、誤差的なモノだとは思いますが。強引に結論づけるとすれば、デトリタスに依存するような微生物に限って言えば、嫌気的+遮光 > 嫌気的+光 > 好気的+遮光 > 好気的+光、の嗜好性が読みとれそうです。

で、これで何が判ったのかというと、光を当てるとコケが生える、です(曝)
ワラワランドのネタとしては不合格な内容だったので、ブログネタにしたんだとさ♪

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雑学3.サンゴの白化のメカニズム

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(将来のコンテンツのための雑学メモ 3.)

前回までの雑学

サンゴの白化現象

光合成をするサンゴの体内には、渇虫藻と言う渦鞭毛藻の仲間が共生しています。
サンゴはその共生藻からの栄養を使って炭酸カルシウムを形成し、成長していきます。
この代謝は両者に最適な環境下でおこなわれ、光が強すぎたり水温が高くなると、活動が抑制されます。
環境が改善されない場合、共生藻が光合成色素を失ったり、あるいはサンゴから排出されることによって、共肉が透き通り、白い骨格が浮き彫りとなるため、俗に言うサンゴの白化現象となります。
白化したサンゴは、渇虫藻からの栄養が得られなくなるため、そのまま回復できなければ斃死が待っています。

白化のメカニズム

サンゴの白化現象は、サンゴ本体と渇虫藻のそれぞれの代謝と連携して起こります。
白化のきっかけは、高水温によるストレスを受けることから始まります。
種によって温度の耐性は様々ですが、全般的にサンゴ本体より渇虫藻の方が高水温には弱いようです。

まず、渇虫藻は高水温により光耐性が低くなり、通常の光環境ですら光阻害が起こり始めるため、光合成回路に支障をきたすようになります。
またサンゴ本体は高水温により、炭素固定回路(石灰化)が機能低下に陥ります。
この条件で光合成を開始すると、炭素固定回路で消費するはずだったエネルギーが行き場を失い、酸素と結びついて活性酸素を発生させ、より渇虫藻の損傷や破壊を招く悪循環となります。

渇虫藻の損傷が著しいと、細胞が破壊されたり、光合成色素を失って透明になったり、さまざまな変性が渇虫藻に見られるようになります。
勿論、症状が進行するほど、光合成能は低下し、最終的には機能を失います。

この時サンゴは機能維持のため、初期の段階では、損傷を受けた渇虫藻を優先的に体外へ排出しますが、環境が改善されず被害が著しくなる頃には、サンゴ自体も制御に支障をきたし、渇虫藻の損傷の有無に関わらず、渇虫藻の排出に暴走傾向が見られるようになります。
ここまで来ると、比較的早期にサンゴは白化してしまうようです。

サンゴが何をきっかけに渇虫藻をコントロールするのかハッキリとは解明されていませんが、主に活性酸素の発生渇虫藻からの栄養供給の低下などが考えられます。

また、種によっては白化から回復する能力に長けたものも見られ、如何にすばやく炭素固定回路を復旧させ、活性酸素の発生を抑制できるかが鍵となっているようです。

ちなみに、白化したサンゴに直接バイオマスを与え、渇虫藻の生産物の代替えが可能かどうかを調査した報告もあります。

一方で、先日のサンゴ白化に新データ 褐虫藻「排出」ほぼなしと言う記事もあります。
但しこの記事はとても判りづらく、調査結果を正確に評価できないため、研究機関からの発表を基に慎重に判断する必要がありそうです。

参考:沖縄科学技術振興センターサンゴの研究の各研究報告書

現在までに各機関から報告された調査結果等を基に、僕の浅知恵で解釈した白化のメカニズムです。なるべく専門用語を避け、判りやすさを重視しています。

また、サンゴの白化現象後の斃死も含め、サンゴ体表の共肉が消失した死骸の状態も「白化」と表す場合がありますが、ここではあくまでも渇虫藻の変異・排出により共肉が透き通って白色個体となった状態のみを「サンゴの白化」として扱いました。

記事中の各リンク先はTAKAさんの提供です。感謝いたします。

尚、誤りがあったら訂正しますのでお知らせくださると助かります。

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雑学2.炭素循環と光合成

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(将来のコンテンツのための雑学メモ 2.)

前回までの雑学

炭素循環

炭素循環には、比較的サイクルの短い生物学的反応によるものや、何万年規模の周期を要する地核的な循環が挙げられますが、ここでは地核的循環やメタンハイドレート、温暖化問題等の話題は割愛し、短期的な生物学的循環について触れていきます。
また、サイトの性質上、マリンアクアリウム寄りの内容となるため、陸生の代謝については省略している場合があります。

短期的な炭素循環には、海洋による放出と吸収の他、生物の呼吸(放出)と光合成による固定(吸収)が挙げられます。

生物の呼吸によって放出された二酸化炭素は、まず一次生産として多くの光合成生物によって取り込まれ、次に高次消費者らによって摂取され、物質が移動していきます。それはいずれ排泄物や遺体となって、最終的には微生物によって水と二酸化炭素に分解され、炭素は循環していきます。

炭素を固定する生物の代謝反応には、主に植物や藻類、シアノバクテリア、光合成細菌による光合成と、細菌による化学合成が挙げられます。

炭素の固定

●光合成

光合成生物のうち、植物や藻類、シアノバクテリアは酸素発生型の光合成を行いますが、その他の細菌による光合成では酸素は発生しません。

全ての光合成生物はクロロフィル:葉緑体(細菌ではバクテリオクロロフィル)と呼ばれる光合成色素を持ち、この色素により光エネルギーを化学エネルギーへ変換します。
クロロフィルは構造により、a(緑)、b(黄緑)、c(青緑)、[d,e] のタイプに分けられ、多くの光合成種が主要色素のクロロフィルaを持つ他、植物はクロロフィルbを、藻類はクロロフィルcを補助色素として併せ持つ場合が多いようです。
クロロフィルaの光の波長吸収特性は、主に青と赤にもっとも大きなピークを持ちます(クロロフィル自体の色素に由来)。また、クロロフィル以外の光合成色素には、カロチノイド(黄~褐色)やフィコビリン(青、赤)があります。

例外を除き、すべての光合成ではカルビンサイクルが用いられ、1回転あたり1分子の二酸化炭素を固定します。

光合成による反応回路
明反応 光化学系 I (PS I) 12 H2O + 12 NADP+ + エネルギー → 12 NADPH + 12 H+ + 6 O2
光化学系 II (PS II) ADP + Pi + エネルギー → ATP
暗反応 二酸化炭素固定 6 CO2 + 12 NADPH + 12 H+ + ATP → C6H12O6 + 6H2O + 12NADP+ + ADP + Pi
カルビンサイクル 12 H2O + 6 CO2 + エネルギー → C6H12O6 + 6 O2 + 6 H2O

NADPH:還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸 (還元力)

ATP:アデノシン三リン酸 (エネルギー)

光合成生物による炭素固定回路
植物、藻類、
シアノバクテリア
カルビンサイクル
還元力にはNADPH2(水)を利用
(海洋では主に炭酸脱水素酵素により炭酸をCO2源とする)
光合成細菌 紅色硫黄細菌 カルビンサイクル
還元力には硫化水素等の硫黄化合物を利用
緑色硫黄細菌 還元的TCA回路(TCA回路[クエン酸回路]の逆回転)
還元力には還元型のフェレドキシンを一部利用
紅色無硫黄細菌 炭素源に有機酸(乳酸等)や有機物(イソプロパノール等)、還元力に水素を利用し、ブドウ糖を生成
緑色無硫黄細菌

紅色硫黄細菌: クロマチウム属/Chromatium (バクテリオクロロフィルa,[b])など

緑色硫黄細菌: クロロビウム属/Chlorobium (バクテリオクロロフィルa,c,[d,e])など

紅色無硫黄細菌: 嫌気性光合成従属栄養性 (暗条件下にて好気的従属栄養性)

緑色無硫黄細菌: 嫌気性光合成従属栄養性 (好気下にて好気的従属栄養性)

●化学合成

化学合成独立栄養細菌は、無機物またはメタン等を酸化して得たエネルギーを用いて、二酸化炭素を固定します。
またメタン発酵では、嫌気的環境にて二酸化炭素と水素または酢酸等を用いてメタンを生成します。

化学合成生物による炭素固定回路
亜硝酸菌 カルビンサイクル (還元力は必要としない)
2 NH3 + 3 O2 → 2 HNO2 + 2 H2O + エネルギー(炭素固定)
硝酸菌 カルビンサイクル (還元力は必要としない)
2 NO2 + O2 → 2 NO3 + エネルギー(炭素固定)
無色硫黄細菌 カルビンサイクル (還元力は必要としない)
2 H2S + O2 → 2 S + 2 H2O + エネルギー(炭素固定)
2 S + 3 O2 + 2 H2O → 2 H2SO4 + エネルギー(炭素固定)
メタン細菌 二酸化炭素を炭素源、水素を還元力に炭素固定
CO2 + 4 H2 → CH4 + 2 H2O

亜硝酸菌: ニトロソモナス属の Nitrosomonas europaea など

硝酸菌: ニトロバクター属の Nitrobacter winogradskyi など

無色硫黄細菌: チオバチルス属/Thiobacillus、ベギアットア属/Beggiatoa、チオプローカ属/Thioploca など。上記反応式は Thiobacillus thiooxidans による

メタン細菌: メタノコッカス属/Methanococcus、メタノバクテリウム属/Methanobacterium、メタノロバス属/Methanolobus など

炭素の分解

一方、炭素が大気に開放される反応は、生物の呼吸以外には、微生物による分解やメタン資化などがあります。
生物の排泄物や遺体は、様々な分解者によって細かく解体され、最終的には多くの微生物によって無機分子(水と二酸化炭素)にまで分解されます。
メタンの資化では、メタン細菌によって生成されたメタンが、メタン酸化細菌によって二酸化炭素に再酸化されます。

メタン酸化細菌: メチロモナス属/Methylomonas、メチロバクター属/Methylobacter、メチロミクロビウム属/Methylomicrobium など

参考: 環境微生物学、海洋微生物の分子生態学、
クロロフィルカルビン回路光合成色素硝化細菌

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