遅くなってすみません。
情報の吸収率を高めるため、画像の準備に時間が掛かりました。
では、前回のT5トリックの続きです。
まずは前回のおさらいです。
前回測定したT5/SC/KRのスペクトルと放射照度の比較結果はこのようになりました。
(a) ATI : AquablueSpecial×6
(b) ATI : AquablueSpecial×2 + BluePlus×2 + Actinic×2
* KR93XPのみ別データからの合成です
光強度比較 @30cm |
ATI T5 39W×6 =234W (a) |
ATI T5 39W×6 =234W (b) |
SC BLV(W) =150W |
KR93SP 24″ 2.02 =100W |
KR93XP 24″ =100W |
---|---|---|---|---|---|
放射照度 積分値 (300-1100nm) [W/m2] |
175.35 | 135.17 | 173.68 | 185.87 | 216.20 |
消費電力 [W] | 234 | 234 | 150 | 100 | 100 |
効率 [W/m2/W] | 0.7493 | 0.5776 | 1.1579 | 1.8587 | 2.1620 |
今回はこの結果を基に、T5のウィークポイントについてお節介を焼いていきます。
まず、上記結果グラフの300-500nm間をクローズアップしてみましょう。ここにはVFP/BFP/CFPなどの蛍光タンパクの励起に必要なUV域の波長が含まれます。
SCマリンブルーは完璧です。海中スペクトルと見事にシンクロしてますね。
フルスペも390nm~は確保できてますが、380nm以下は欠落してます。ぐふっ。
T5は・・・ギリギリ400nmからの立ち上がりはあるので、あとはActinicを入れておけば400-420nmはそれなりに確保できるでしょう。ストロベリーやスパスラタの維持に苦戦されてる方は、この辺のところをもう一歩工夫してみてください。
続いて、500-700nmを見てみましょう。
うーん。。。問題はここですね。
SCやフルスペは海中スペクトルに逆らわない緩やかな特性を持ちますが、T5は光強度の瞬発的な突出と欠落が交互に並んでいます。もしこれがサンゴにとってストレスになるなら、ZEOvitのストレス源にもちょうど良いのかしら?
ウィークポイントとしては、T5特有の強烈な緑540nmの前後の欠落、そして赤610nmの前後の欠落の、計4つの波長の欠落があります。もしこの欠落部分に対して蛍光タンパクや色素タンパクの要求波長があった場合、このT5の特性では十分に応えられないと言う事になります。
ここで「十分に」と書きましたが、実はある程度は応えられます。それは、それらの色素の要求がピンポイントでは無く、ある程度の帯域を持っているため、そこにT5の緑や赤のピークがかすめていれば、濃くは無理でもそれなりには対応できるからです。パステル自体はZEOvitによる褐虫藻制御(栄養添加含む)による部分が大きいのですが、パステルの色素の薄さについては、これは各色素に対するT5の応答不足も原因のひとつです。
ただ、T5の緑540nmのピークをもっともっと強くすれば、薄くが積もり積もってある程度は濃くなります。また、色素の要求とT5のピークがうまく合致さえすれば濃ゆい色揚げも可能なので、そう言う貴重な個体は重宝されるでしょう。
ついでに上図を基準に、僕の独断で各光源の波長カバー率を採点してみました。
color | wavelength | ATI T5 39W×6 =234W (a) |
ATI T5 39W×6 =234W (b) |
SC BLV(W) =150W |
KR93SP 24″ =100W |
KR93XP 24″ =100W |
---|---|---|---|---|---|---|
UV | 360nm | × | × | ○ | × | × |
370nm | × | × | ○ | × | × | |
380nm | × | × | ○ | × | △ | |
390nm | × | × | ○ | ○ | ○ | |
400nm | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | |
Violet | 410nm | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
420nm | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | |
430nm | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | |
Royal Blue |
440nm | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
450nm | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | |
460nm | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | |
Blue | 470nm | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
480nm | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | |
490nm | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | |
Cyan | 500nm | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
510nm | △ | △ | ○ | ○ | ○ | |
520nm | △ | △ | ○ | ○ | ○ | |
Green | 530nm | × | × | ○ | ○ | ○ |
540nm | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | |
550nm | ○ | ○ | △ | ○ | ○ | |
Yellow | 560nm | × | × | △ | ○ | ○ |
570nm | × | × | △ | ○ | ○ | |
580nm | ○ | ○ | △ | ○ | ○ | |
Orange | 590nm | ○ | △ | △ | ○ | ○ |
600nm | △ | × | △ | ○ | ○ | |
610nm | ○ | ○ | △ | △ | ○ | |
Red | 620nm | ○ | △ | △ | △ | ○ |
630nm | ○ | × | △ | △ | ○ | |
640nm | × | × | △ | △ | ○ | |
Deep Red |
650nm | × | × | △ | △ | ○ |
660nm | × | × | △ | △ | △ | |
670nm | × | × | △ | × | △ |
○ 0.2-2.5 W/m2/nm
△ 0.1-0.2 W/m2/nm
× 0.0-0.1 W/m2/nm
(a) ATI AquablueSpecial×6
(b) ATI AquablueSpecial×2 + BluePlus×2 + Actinic×2
まあ、この採点は どこに線を引くか でどうにでもなりますから、あくまでも警告が目的だとご理解ください。あちこち床が抜けてるから足下気を付けてね、ってことです。
では、具体的に色素の要求特性を見てみましょう。
まずは蛍光タンパクです。各色の代表的な特性を並べてみました。いずれも左の破線が要求スペクトル、右の実線が発光スペクトルです。破線のような特性の波長を受ければ、実線のような特性で発光しますよ、と言うことです。
* リファレンス a-e
上から順に、
- VFP(紫蛍光タンパク)
- BFP(青蛍光タンパク)
- CFP(シアン蛍光タンパク)
- GFP(緑蛍光タンパク)
- YFP(黄色蛍光タンパク)
- RFP(赤蛍光タンパク)
- Keima(赤蛍光タンパク) * 青光を当てると何色も飛び越えて赤蛍光を発色
- Kaede(緑/赤蛍光タンパク) * UV光を当てると緑蛍光→赤蛍光に変化
- Dronpa(緑蛍光タンパク) * 青光で緑蛍光オン、UV光で緑蛍光オフ
これらはサンゴの蛍光タンパクのごく一例です。実際の種類と特性は多岐に渡ります。
VFPの維持はT5だと厳しいでしょうね。
BFPは吸収スペクトル帯の長波長側の半分を軽くなでることはできるので薄くは維持できるかも知れませんが、濃くは難しいと思います。
CFP/GFP/YFPは概ね維持できるでしょう。T5でよく見かける水色のミドリイシの蛍光タンパクも多くはこのCFPでしょうね。 色合い的にはBFPでは無さそうです。
RFPも局所とは言えT5の緑が強く突いているので、累積発光量は大きいはずです。
T5のスペクトルと蛍光タンパクの要求スペクトルを重ねるとこうなります。
このように、T5では特にバイオレットとブルーの蛍光がネックになっています。
できればF.P.ドクターで蛍光タンパクをチェックしておくことをお勧めします。
それ以外の蛍光タンパクについては、不完全ながらも各要求の帯域をどこかしら叩いてはいるので、叩いた位置と量に応じた維持は可能です。
蛍光タンパクは光の当たる面に形成され、影の部分には形成されないので、このことからも蛍光タンパクの維持には適切な波長の光が当たる必要があることが判ります。
続いて、色素色(Chromoprotein:色素タンパク)はどうでしょうか。
* リファレンス f, g
多くの色素タンパクは、橙光570nm~600nmに要求ピークが集中しているので、LEDならデコライトのような温白色系スポットが適しています。フルスペにニュートラルホワイトLEDを多用しているのもこのためです。
T5の場合でも、大半の色素はT5の緑と赤のピークに挟まれているため、例え薄くても色素は維持できます。もちろん、T5のピークとシンクロ率が高い色素なら更に色を濃く維持することも可能なはずです。
ただ、理想を言えば、T5のような歪なスペクトルでは無く、太陽光のように欠落の無いフラットなスペクトルで全域をカバーできれば、どんな要求の色素が来ようとも対応できるので、より本来の色を維持することができますし、ZEOvitのパステルだけではなく、綺麗な濃い色のサンゴも維持できるはずです。
逆に言えば、ZEOvitは蛍光灯を最大限に活かすことのできる究極の奥義だと思います。しかし、それはT5に特化したものでは無く、悪く言えばT5でさえ許容してくれるシステムとも言えるので、だったらT5じゃなくメタハラやフルスペの方が、より綺麗で濃い色揚げが期待できるでしょう。過去の国内の事例のように。。。
以下は主な色素タンパクと、CP-580(一例)の光源別の発色イメージです。
* リファレンス f, g
色素タンパクも光の当たる面に形成され、影の部分には形成されないので、蛍光タンパク同様、色素タンパクも適切な光が当たる必要があることが判ります。もちろん波長だけでもダメ、光量だけでもダメ、その両方が必要なのは勿論ですが、さらに他の波長とのバランスも大事だと言う事が最近判ってきました。どんなに要求を満たしていても他の波長が勝ると阻害される場合もあるのです。詳細はいずれまた。
今T5で維持している色・・・実はもっと濃くなる素質があるかも?
「パステル」と言う言葉が、実は足枷になってない?
さて。
ここまで駆け足でしたが、うまく消化できたでしょうか?
もちろん、サンゴの色を決定するのは光が100%の要因ではありませんし、水質に左右される要因が大きいことも当然ですが、今後、光と水質を極めていく上で、まずは光についてのスキルを極めてもらうため、今回は光に限定して掘り下げてみました。特にT5に限らず白色蛍光灯は人間向けに3波長に最適化されており、またレンズ付きLEDと違って光が直接目に届くため、肉眼では非常に明るく見え、それ故水槽にも十分な”光”があると錯覚しやすいので、光のトラブルに対して灯台モトクラシーになりがちです。
世のZEOvit+T5を代表する綺麗な水景が、決して手放しで築ける訳ではないと言う事が理解できれば、今回の講習は合格です♪
最後に、いじわるな比較をしてみました。
皆さんには何が見えるでしょうか。。。
愛だろ、愛っ。
リファレンス
- a. Olympus FluoView Resource Center: Optical Highlighter Fluorescent Proteins
- b. 細胞イメージング基盤
- c. 新しい蛍光タンパク質 Keima(ケイマ)
- d. フォトクロミック蛍光タンパク質、Dronpa(ドロンパ)
- e .Reversible single-molecule photoswitching in the GFP-like fluorescent protein Dronpa
- f. Feature Article: Coral Coloration, Part 6: Non-fluorescent Chromoproteins (CP-568 – CP-610) And A Newly Discovered Colorant
- g. Feature Article: Coral Coloration, Part 5: Non-fluorescent Chromoproteins (CP-480 to CP-562)
- その他、リファレンスに無い情報は、僕や協力者の皆さんの実験・検証結果で構成されています