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懲りずに書いてみたりする結果オーライな日記

白色蛍光タンパクWFP

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お母さん、僕のあの帽子、どうしたでしょうね?

平成生まれには通じません(笑)

1999年9月、今は無き近所のショップに純白のミドリイシが入荷しました。
あのミドリイシ、どうしたでしょうね?笑

純白に光り輝くミドリイシ

月日は経ち、水槽はなくなっても、ここに来て何故かLEDに関わることとなり(笑)、ついにはサンゴの反射スペクトル調査にまで手を出す始末。。。笑
そんな2012年のある日、ふと、思いました。

青くギラギラした蛍光ブルーのミドリイシ。。。
緑にギラギラした蛍光グリーン。。。
赤くギラギラした蛍光レッド。。。

・・・じゃ、白くギラギラしたのは、蛍光ナニ?

そこで、10年の時を遡り、先ほどの純白に輝くミドリイシが脳裏に蘇りました。
これ、あくまでも白化ではなく、今で言うスパスラタのようにウロコがギラギラした純白!
あれってもしや、↓こゆことじゃない!?

白色蛍光タンパク!?
ホワイト蛍光タンパク!?
White Fluorescent Protein !?
WFP !!! WFP !!! WFP !!!

白色蛍光タンパクの想像スペクトル

およそ400-420nm程度のUV光を浴び、およそ450-550-650nm程度の青-緑-赤を含む白色光を放つ、言うなればこれぞ白色蛍光タンパクなのでは???
と仮説を立てました。

しかし、これまで約3年ほどの間ひたすら探し回ってきましたが、未だ見つかりません。。。
そもそも、サンゴは元より生物由来の蛍光タンパクで白色蛍光を放つ存在自体、それを示す文献にすら遭遇しません。。。もしかしてそんな蛍光タンパク存在しないのかなぁ。。。
現物さえあれば反射スペクトル測定で一発で判るのにっ!!!

ちなみに、僕がこれまでに調査してきたサンゴの蛍光タンパクの発光スペクトルはこちら。

これまでの調査で集めたサンゴの蛍光タンパクの発光スペクトル

* 励起スペクトルは省略しています

かれこれ50パターン以上の蛍光発光スペクトルを見てきましたが、白色蛍光タンパクと思しきスペクトルは皆無。。。まあ、純白ミドリイシ自体にまだ遭遇できてませんからね。。。
ただ、お陰様で、同じような発色に見える蛍光タンパクでも、サンゴの種によってパターンの傾向があることが少しずつ見えてきました。蛍光の傾向。なんちて。

一方、化学合成の分野では、白色蛍光を放つ蛍光体は既に開発されています。
例えば、東京大学物性研究所 上田寛研究室の白色蛍光体バナジウム酸化物 AVO3(A:Rb,Cs)の励起発光スペクトルはこんな感じです。(下に引用元リンクあり)

白色蛍光体:バナジウム酸化物 AVO3(A:Rb,Cs)

また、独立行政法人産業技術総合研究所の白色蛍光体ペロブスカイト型酸化物蛍光体薄膜(CaTiO3:Bi)の励起発光スペクトルはこちら。(下に引用元リンクあり)

白色蛍光体:ペロブスカイト型酸化物蛍光体薄膜(CaTiO3:Bi)

いずれも、400-700nmの可視光線全域をカバーする広範囲な発光スペクトルを持っていることが読み取れます。
こうした単一物質による白色蛍光体は、旧来の白色LEDに用いられてきた青/緑/赤の蛍光体の混合方式に取って代わる次世代蛍光体として、現在研究開発が進められているようです。

詳しくはこちらをどうぞ。

ただ、これらの白色蛍光体は、励起波長がかなり低いんですよね。350nmあたりにピークのある300-400nmの範囲。でも、もしサンゴ礁に白色蛍光タンパクが存在するとしたら、あまり低い波長なはずがないんだよね。海中ではUVはかなり減衰しちゃうから。だから、どんなに低くても380nm以上に励起範囲がないと辻褄が合わない。
そうして行き着いたのが、最初に示したような想像スペクトルだった訳です。

ちなみに、旧来の白色LEDの蛍光体のように、複数の蛍光タンパクを持ち合わせたサンゴもこれまでにいくつか見つけてきました。
例えば、以下のディスクは、欲張りに3色もの蛍光タンパクを保有していました。
(SPSカラーレポートVOL3 28P参照)

BFPとOFP (ディスク)

これらの蛍光タンパクは、それぞれが独立した励起波長域を持つので、このように区別することが出来るのですが、一見オレンジ単色に見えるのに、その中からこうして複数の蛍光タンパクが見つかるなんて凄く不思議ですね。てことは、カラフルなバブルディスクやマメズナあたりだと、一体何色混じってるんでしょうね? いつか測定してみたい♪

一方、以下のカクオオトゲはかなり広範囲な帯域の発光スペクトルを持っていました。
良く言えば肌色?な蛍光オレンジです。
(SPSカラーレポートVOL3 22P参照)

ワイドバンドOFP (カクオオトゲ)

このカクオオトゲの蛍光オレンジは、単一の励起波長だけでこれだけワイドバンドに発光し、しかも緑と黄色にピークを持つ変わった発光スペクトルでした。
今のところ、これが最もワイドバンドで白色蛍光タンパクに近い存在かな(笑)
もう少し帯域が青の方まで広がってくれたら白色蛍光タンパクなのになぁ~笑

しかし、まだ諦めていませんよ。
いつかサンゴから世界初の白色蛍光タンパクWFPを発見し、GFPの下村先生に続くノーベル賞をっ♪笑

皆さんも、もしそれっぽい怪しい純白ミドリイシを見かけたら教えてくださいね。
またはお持ちの方は、枝を一本譲ってください!
ノーベル賞受賞の暁には、片町で豪遊いたしましょう~♪笑

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海中スペクトル測定に最適な防水ケース

この記事を含むタグの全記事リスト: LEDうんちく スペクトル 測定器

年末に投稿したUPRtek MK350にジャストサイズの防水パックですが、その後年明けに投稿したオージーサンゴの大盛り蛍光タンパクの理由でも触れたように、海中スペクトル測定に使用する防水ケースのナイロン素材によっては、400nm以下のUV域のロス量(透過率)が異なるため、測定結果を解釈する際にはその防水ケース特有のUVロス量も考慮する必要が出てきます。そうしたUVロスへの配慮は、UV LED採用時のレンズ選定にも大変重要で、そこを見誤ると今まで僕が散々警鐘を鳴らしてきたようなUV LED焦げ問題(例1)(例2)外部レンズ焦げ問題(例1)(例2)ような事故にも繋がりかねません(図式:UVロス=UVエネルギー衝突=透過体ダメージ)。そう考えると、年明け2発目の東京ビッグサイトでのLEDイベント2015の後半でもご紹介したUV透過率を考慮した東レのシリコンレンズが如何に有用かお判り頂けるでしょう。
そう、年末からのこれら3連記事は、実はすべてシンクロしていたんですね♪
僕は今気付きましたが(曝)
はい。ただの偶然です。東レのシリコンレンズを使う予定はありません(汗)

相変わらず前置きが長くなっております(汗)

そこで、過去に海中スペクトル測定に使用してきた各防水パックも含めて、今後の測定後の補正に役立てるべく、各防水ケースのUVロス特性を調べて比較してみました。

UPRtek MK350が収容可能な防水ケース

上から、

です。

検証手順は、

  1. まず基準光源として、SPSカラーレポートでも使用している5000Kハロゲンを測定。
  2. 各防水ケース越しで上記基準光源のスペクトルを測定。
  3. 1.と2.からUV透過率を計算しグラフ化

UV透過率の計算式はこんな感じ。

UV透過率計算式

但し、積分の式の書き方はあやふやかも(汗)

ホントは太陽光を測ろうと思ってたんだけど、天候がイマイチだったのと、太陽光だと測定ポイント(空の位置)によってスペクトルが結構変動するので、固定的な安定スペクトルの確保を優先して、敢えてフルスペクトルなハロゲンを利用することにしました。
ちなみにスペクトロメーターはUPRtek MK350ASEQ LR1を使用しました。

まず、MK350でのグラフ比較から。

ベース光源 5000Kハロゲンと各防水ケースのUVロス特性 (MK350グラフ)

はい。これじゃ違いがサッパリ判りませんね(笑)
なので、こうした検証には生データ(エクセルファイル)の方を用います。
その結果がこちら。

まず、基準光源5000Kハロゲンのスペクトルです。

ベース光源 5000Kハロゲン (MK350)

そして、各防水ケースの測定結果から算定したUVロス特性グラフがこちら。

各防水ケースのUVロス特性 (MK350)

なんか粗い気がするし、420-430nmあたりに不可解な凹みが。。。笑
はい、実はこの手の検証にはMK350は向きません(汗)
なので、こういうのは高精細な分解能を持つLR1にお任せください♪

まず、基準光源5000Kハロゲンのスペクトルです。

ベース光源 5000Kハロゲン (LR1)

* MK350に比べ長波長側の感度が低いのはLR1のUV仕様の特性です

そして、各防水ケースの測定結果から算定したUVロス特性グラフがこちら。

各防水ケースのUVロス特性 (LR1)

おおお! 僕が元々使ってたDryCaseがダントツで優秀でした♪
(400nm以下がフラットで高推移なほどUVロスが少ない特性と言う事になります)
一方、年末に紹介したCASE FACTORYや和田さんが使用したモノは結構UVロスが大きいようです。ま、このデータがあればどれで測定しても補正は可能ですが、元々の測定結果がUVロスを含まないに越したことはないので、やはりDryCase社からiPhone6 PLUS用の大きな防水ケースがリリースされるのを待った方が良いかも知れません。ま、同じナイロン素材を使ってくれればの話だけど(汗)

尚、グラフの370nm以下の乱れは、そもそもハロゲン自体が370nm以下をほとんど含まないため、測定値に占めるノイズ成分が大きく、減衰率の算定結果に影響を与えるためです。いつかもっとUVA域を多く含む光源が確保できたらリベンジしてみます。
とりあえず今回はこれで我慢してください(笑)

あ。
でも、MK350持って海中スペクトル測る人なんて、ほとんどいないか(曝)

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新春♪オージースペクトル大公開!

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皆様、明けましておめでとうございます。
お陰様で1.023worldも18年目に突入しました♪
今年もどうぞ宜しくお願いします!

年明け一発目は豪華なネタを大放出です♪

あの美しいイチゴやスパを育むオーストラリアのサンゴ礁♪
その海中スペクトルって一体どーなってんの~スペシャル!

オーストラリアの海

この記事では、判りやすく串本グレートバリアリーフを比較して進めていきます。
ホントはデータだけなら去年の春には出せましたが、その後のオージーサンゴの吸収スペクトル調査結果(カラーレポートVOL3)や、第17回サンゴ礁学会での情報収集に基づく既存データの裏付けや理論考察等に時間がかかりました。
これを読めばすべての謎が解けるかなぁ~?
一見長めだけど(汗)、写真ばっかりなのでサクッと読めちゃうはずです♪

疑惑1:オーストラリアと日本近海は水質が違うの?

比較的地味なサンゴで構成される日本近海のサンゴ礁に対し、派手な色彩のサンゴが際立つオーストラリアのサンゴ礁。一体何が違うのか?

だって、海水の成分構成なんて世界中どこも似たようなモノですぜ?
そんなこと言ってたら、水槽の方がよっぽど日々変化して不安定です(笑)
特に栄養塩レベルはシステムに依存して変動が激しい場合も!
そりゃ勿論、河口や漁港は透明度も悪いし栄養塩濃度も高いけど、サンゴ礁という区域で見れば、成分も栄養塩もあまり大差はありません。
ならば、水質なんてせいぜい基礎成分の再現維持に努めていれば十分では?
あ、溶存濃度が管理できるなら、日々の添加剤での補正も有益ですよね。
カルシウム然り、マグネシウム然り、カリウム然り、あとヨウ素も揮発性が高いからOK。
ただ、測りようのないモノは隠し味程度にね。それ以上に入れちゃダメ、絶対。
だってそうでしょ。消費量も溶存量も見えないモノを一体どれくらい添加するの?
結局可笑しくなって換水するしかなくなっちゃうんですから。。。

海水 - Wikipedia より抜粋

海水の塩分濃度は測定の位置により一様ではないが、
塩分の構成についてはほぼ一定である。

  • 水 96.6%
  • 塩分 3.4%

この内、塩分は、

  • 塩化ナトリウム 77.9%
  • 塩化マグネシウム 9.6%
  • 硫酸マグネシウム 6.1%
  • 硫酸カルシウム 4%
  • 塩化カリウム 2.1%
  • その他
海水に含まれる主要なイオン・化学種
成分 化学式 質量% 溶質%
ナトリウムイオン Na+ 1.0556 30.61
マグネシウムイオン Mg2+ 0.1272 3.69
カルシウムイオン Ca2+ 0.0400 1.16
カリウムイオン K+ 0.0380 1.10
ストロンチウムイオン Sr2+ 0.0008 0.03
塩化物イオン Cl 1.8980 55.05
硫酸イオン SO42− 0.2649 7.68
臭化物イオン Br 0.0065 0.19
炭酸水素イオン HCO3 0.0140 0.41
フッ化物イオン F 0.0001 0.003
ホウ酸 H3BO3 0.0026 0.07

* 文中の強調は当方による

はい!ここでひとつ消えたぁ~♪
疑惑1:水質の差? → 水質の差では無い

ここでちょっと脱線。
体験者の方々にはもうお馴染みだと思いますが、

  • スギノキ・ブルーがチャイロイシになっていく?
  • ウスエダ・ブルーがマットなブルーになってしまう?
  • スパのギラギラした鱗が消失していく?
  • イチゴのグリーンが消失してピンク(赤)だけになってしまう?

のようなお悩みに対して、

  • メタハラに戻す(笑)
  • 400-420nmのUV系(以下、UV系)の多いLEDに切り替えるか、
    UV系LEDスポットを足す

のような対処によって蛍光が戻っていくことは、ようやく周知の事実となりました。
知らない方は、まず体験すると良いです。それが手っ取り早い!
ま、元々メタハラの人にとっては対岸の火事だろうけど(汗)

いやぁ~長かったぁ~笑
思い起こせば、僕がボルクスにUV 400nm入りLEDスポットの製造を打診したのは2009年で、翌2010年には製品化されましたが、当時から色々冷やかされましたからねぇ(笑)
でもその後、UVストレスによる蛍光タンパクの増加現象が Yuyama et al. (2012)らによって報告されたり、まあ今となれば懐かしくて良い想い出です(笑)

そうして今では世界の各社がこぞってUV LEDを採用するに至りました。
EcotechMarine然り、AI然り、Vertex然り。。。そう思えば、比較的初期から積極的にUVを採用していたMaxspectやIllumagicあたりは革新的でしたよね~♪

話を戻して、先ほどの理屈を簡単に説明すると、

  • スギノキ・ブルーはブルー蛍光タンパクシアン蛍光タンパクで色素構成されているので、その蛍光タンパクを励起できるUV系の波長が光源に含まれていないと、当然蛍光は発現できないし、いずれ色褪せていきます。
  • ウスエダ・ブルーはブルー蛍光タンパクシアン蛍光タンパクに加え、ベースにはブルー色素タンパクを持つため、上記の理由で蛍光タンパクが消失しても、ブルー色素タンパクだけは吸収要求(極大)のアンバー前後の波長(緑~赤)がそこそこあれば維持され、結果ギラギラ感の失われたマットな濃いブルーに落ち着きます。これはこれで綺麗ですが、本来の自然下での色彩ではありません。
  • スパのギラギラした鱗模様はシアン蛍光タンパク等で構成されていますが、その保有量がとても多いため、あのような鱗模様となって見えますが、やはり励起源となるUV系の波長が無いと鱗模様が消失し、ただの色素タンパク色だけが残ってしまいます。
  • イチゴの幹のグリーンはシアン蛍光タンパクですが、やはり励起源となるUV系の波長が無いとグリーン部分が消失し、ただのレッド蛍光タンパクだけが残ってしまいます。

このようなフローを辿るからです。
はい。励起波長による蛍光発光は歴とした光化学です。水質だけ整えてどーこーできる代物ではありません(勿論、基礎成分を確保することは当然必要です)。
そこを理解されないと、いつまで経ってもブルーやシアン蛍光はコントロールできません。
一方、蛍光グリーンや蛍光レッドあたりなら、青を含むライトで容易に維持出来ます。
このように、蛍光タンパクにはブルーやシアン、グリーン、レッドなど多数存在し、その発光色によって励起できる波長(=維持出来る波長)が異なります。それらを一緒くたにすると間違いの元です。それぞれにどの波長が必要なのか、良く見極めましょう。

ブルー蛍光リッチでギラギラしたウスエダ(左)と、ブルー蛍光が消失してマットなブルー色素タンパクのみになったウスエダ(右)

写真は、ブルー蛍光タンパクが維持されギラギラしたウスエダ(左)と、ブルー蛍光タンパクが消失してマットなブルー色素タンパクのみになってしまったウスエダ(右)です。

シアン蛍光リッチで幹がグリーンのストロベリー(左)と、シアン蛍光が消失してレッド蛍光タンパクのみになったストロベリー(右)

写真は、幹のシアン蛍光タンパクが維持されたストロベリー(左)と、幹のシアン蛍光タンパクが消失し、ブルー光励起によるレッド蛍光タンパクのみが残ったストロベリー(右)です。

よって、万一そうした色落ちを招いてしまったとしても、そこへUV系の波長を戻してやれば、ほとんどの場合蛍光は回復するはずです。ただ、完全に消失してしまった後だと、既に衰弱してポリプすら出さない状態だったり、何より蛍光タンパクが無い訳ですから、UVを当てるとそのまま共肉の細胞にダメージを与えてしまいます。そう、ブルー/シアン等の蛍光タンパクはUV防御でもありながら、様々な抗酸化作用を併せ持つことも判っているので(Higuchi 2014)、蛍光が消失していると言うことは、様々なストレスが処理できずに衰弱している可能性が極めて高いと考えられるのです。
なので、戻すなら手遅れにならないうちにオススメします。

疑惑2:じゃあ、オーストラリアの空はUVが多いの???

さて、前置きが長くなりましたが、ここからが本題です。
2013年8月に串本で測定したスペクトルと、2014年4月にグレートバリアリーフで測定したスペクトルを比較していきます。

まずは串本とグレートバリアリーフの海上での太陽光スペクトル比較です。

串本とグレートバリアリーフの太陽光スペクトル

注) 串本で使用した防水ケースとオーストラリアで使用した防水ケースが異なるため、400nm以下のUVの透過率が異なっている点に注意してください
(400nm以下の波形は無視して結構です)

どちらも晴天で正午頃(12時台)のものでしたが、全く同じスペクトルでした。
なんだぁ…てっきりオゾン層が薄いのか?とか思ってた(笑)けど、誤差の範囲でしたね。
結局、串本にもオーストラリアにも、可視光線域に関しては緯度にあまり左右されず、同じ太陽光スペクトルが降り注いでおりましたとさ♪

はい!ここで二つ目消えたぁ~♪
疑惑2:緯度の差? → 緯度の差では無い

疑惑3:てことは、オーストラリアの海中のUVが多いのか?

続いて、気になる海中スペクトル、水深50cm、水深1M、水深3Mの比較です。

串本とグレートバリアリーフの海中スペクトル

おおおおおおおおおお!!!
やっぱりグレートバリアリーフはUV 400-420nmがてんこ盛りだったのかぁぁぁ♪

てことは、
疑惑1:水質の差? → 水質の差では無い
疑惑2:緯度の差? → 緯度の差では無い
正解:海水の透明度が高いから深場までUVが届いている!
これが答えでした~!

そして、ここまでは単なる相対グラフでしたが、試しに波長強度も比較してみましょう。
ま、浅場は水面の波紋によるレンズ効果が大きいため、キラキラする水中で拾った照度はあまり当てになりませんが、あくまで参考程度にご覧ください。

串本とグレートバリアリーフの水深3Mの海中スペクトル

*縦軸はスペクトロメーターの受光素子の単なるカウンタ量なので単位はありません

とは言え、やはりこれは透明度の違いですね。約2倍近くの光量差が見られました。
しかもUVがロス無く届いていることからも、かなり透明度が高いことが伺えます。
串本の水深3Mは陸上に比べかなり400-420nmが削れてるのに対し、グレートバリアリーフの水深3Mは陸上と遜色ないUV強度が確保されているようです。
なるほど~。これがオージーサンゴのシアン蛍光バリバリの秘密だったのか~!

ちなみに、偶然面白いことを発見しました。
串本の水深3Mと、グレートバリアリーフの水深5Mは、ほぼ同じスペクトルでした(笑)

串本の水深3Mとグレートバリアリーフの水深5Mのスペクトルが一致

凄いシンクロ率!
これは、「透明度」と言うフィルターが変化しても、光量こそ変われど、波長の減衰特性は変わらないことを意味してますね。だって、濁った串本の水深3Mと、クリアなグレートバリアリーフの水深5Mのスペクトルが一致した訳ですから。濁っていても透き通っていてもスペクトルの減衰結果が同じと言うのは、ちょっとした発見でした♪
とは言え、それでもUV 400-420nm域はGBRの勝ちですけどね(笑)
UVってホント、減衰しやすいですねぇ。。。

でも、ふと疑問を持ちませんか?
グレートバリアリーフなら水深5MでもUVが十分に届いてブルーやシアン蛍光が促進されることが判ったけど、串本でも水深50cmならUVもそこそこあるやん!と。
じゃあ串本でも水深50cmならスギノキ・ブルーがおってもええやん!と(笑)
でもね、ダメなんですよ、50cmなんて。干潮時に完全に陸上になっちゃうんで(曝)
はい。干満差が3-4Mなんてザラですからね、太平洋側は。
だから、干潮時でも水面に露出しない十分な水深に生息しているサンゴに、且つ満潮時でも余裕でUVを届けることができるグリートバリアリーフだからこそ、干潮時も満潮時も十分なUVを浴び続けられ、あのような派手な蛍光タンパクによる色彩を育むことができる訳なのです。しかも干潮時にはさらに凄い量のUVを浴びて、これはまさに蛍光タンパクの大運動会やぁ~♪笑
う~ん、納得♪

串本の水景 (2013/8)

串本は主にこんな色彩がメインですね。

串本のミドリイシ群の色彩

串本の場合、透明度が悪くUVがほとんど届かないため、ブルーやシアン蛍光タンパクを発現させる必要がありません(と言うか励起光がなければ発現しようがない)。よって、サンゴの色彩は主に褐虫藻による褐色がベースですが、UVは届かなくてもブルー光は減衰せずに届いているため、ある程度の強いブルー光はUV防御と同じように蛍光タンパクで波長シフトをおこなって光エネルギーを減衰させる必要があります。そのため串本ではブルー光を励起源とするグリーン蛍光タンパクを持つミドリイシはよく見られます。
串本の水景の理由って、要はそういうことなのです。

串本のミドリイシ

とは言え、まったく同じ水深でも蛍光グリーンを持つモノと持たないモノが混在していて、その理由はまだハッキリ判りません。一説には、プラヌラ期に取り込む褐虫藻のクレードの違いによって、発現できる蛍光タンパク量に制限が生じるとの報告(Yuyama et al. 2012)もありますが、今後の研究課題です。

串本でも、超浅場では真っ赤に熟れたハナヤサイが見られます♪
ハナヤサイの鮮やかな赤色はレッド色素タンパクです。

串本の水面際のハナヤサイ

本種には光量が必要なので、串本の場合、綺麗な個体は超浅場でしか見られません。
たまに、ちょい深め(2-3M)で見かけても、こんな感じです。もっと光を!笑

串本の水深2-3Mのハナヤサイ

* 写真提供(上記4枚):だにやん

おまけ。
串本でも超浅場なら青いイソギンチャクがたまに見られます♪

串本の青いイソギンチャク、但し色素タンパク

但し、ブルー蛍光タンパクではなく、ブルー色素タンパクですが。

グレートバリアの水景 (2014/4)

スパスラタ・バイオレットは、ブルー蛍光タンパク+レッド色素タンパクの色素構成です。
(SPSカラーレポートVOL1 - 7P参照)

グレートバリアリーフのスパ・バイオレット

スパスラタ・イエローは、シアン蛍光タンパク+イエロー色素タンパクの色素構成です。
(SPSカラーレポートVOL3 - 10P参照)

グレートバリアリーフのスパ・イエロー

スパスラタの多くは非常に濃い蛍光タンパクを持つため、ポリプ外縁の蛍光発光が強く目立ち、まるでウロコのように際だった色彩が特徴的です。

グレートバリアリーフのスパのギラギラの鱗模様

スパの色彩は本当に芸術性が高いですね♪

こちらは蛍光タンパクを持たないレッド色素タンパクのようです。
水深5Mでも、アンバー光を含む十分な中域波長が届いているってことですね。

グレートバリアリーフのミドリイシ

ハナヤサイ、串本なら水深5Mだと光量不足で真っ白でしょう(笑)

グレートバリアリーフのハナヤサイ

* 写真提供(上記5枚):BH和田

最後に…

但し、これらは海中スペクトル測定結果から推察された透明度の違いによるUV透過量からだけの考察です。実際の蛍光タンパクと色素タンパクがそれぞれどこからきて、サンゴがどれを選択するのか、まだ詳しく解明されていません。
とは言え、褐虫藻に関しては、サンゴは遺伝的な嗜好を持つことが研究で判っています。また、蛍光タンパクにしろ色素タンパクにしろその主成分はアミノ酸であり、その構築に必要なアミノ酸はすべてサンゴと褐虫藻が産生しますから(Shinzato 2011)、もしかしたら形成する蛍光タンパク・色素タンパクの選択肢も、褐虫藻のクレードの影響を受けているのかも知れません。事実、褐虫藻のクレードによって蛍光タンパクの発現量が制限されることが判っています(Yuyama et al. 2012)ので、今後の研究が待たれます。

■リファレンス

■データ提供元

  • 串本の海中スペクトル:エイジ (2013/8)
  • グレートバリアリーフの海中スペクトル、生態写真:BH和田 (2014/4)
  • 串本の生態写真:だにやん (2013/8-9)

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