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単波長LEDと蛍光体型LED

ブログ エイジ 00:32 コメント0件
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今日は唐突にLEDの特性をおさらいしてみたいと思います。

でも相変わらず長文なので(汗)、先に結論だけ見せておきます(曝)
長文や技術的なことが苦手な方はそのまま結論だけ覚えておいてください。
いずれ投稿される記事の理解に役立つでしょう。
しかし、頑張って解説も読むぜ!と言う方は、以下の解説表示をクリックしてください。
解説表示

単波長LEDと蛍光体型LEDの結論:

  • 蛍光体で作った波長強度は非常に弱いので、
    目的の波長の単波長LEDが存在するならそれを使うに越したことはない

    (例:シアン蛍光体LEDよりも、単波長500nmのシアンLEDを使うべし!)
  • UV系チップは蛍光体寿命を縮めるので、
    なるべく青チップを励起源とした蛍光体LEDを使うことが推奨される

    (例:UVチップ+蛍光体LEDよりも、青チップ+蛍光体LEDを使うべし!)
    ※但し、LED素子の製造元が一般平均的なLED寿命を保証してるならOK

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蛍光タンパクのロジカルカラーマネジメント

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前回の白色蛍光タンパクの記事では蛍光タンパクの発光スペクトルに触れました。
そこで今回は蛍光タンパクの励起スペクトルに焦点を当ててみたいと思います。

オージーストロベリー+400nmの蛍光発光

まず、蛍光タンパクを語る上での前提として、

●蛍光タンパクの発光スペクトル → 蛍光タンパクの発光色のスペクトル
●蛍光タンパクの励起スペクトル → 蛍光タンパクが発光するために必要な波長特性
●蛍光タンパクの発光ルール → 原則的には短波長から長波長への波長シフト

この辺はもうお判りですよね?
さらにもう少し突っ込むと、以前のオージースペクトルでも触れたように、

●蛍光タンパクはUVストレスによって増加する (Yuyama et al. 2012)
●蛍光タンパクはUV防御以外に抗酸化作用も併せ持つ (Higuchi 2014)
●褐虫藻のクレードによって蛍光タンパク量が制限される (Yuyama et al. 2012)
●蛍光タンパクの形成に必要なアミノ酸はすべてサンゴと褐虫藻が産生する (Shinzato 2011)

* 各リファレンスはページ末尾

なども、各専門機関の研究者らの努力により明らかになってきました。今後、サンゴや褐虫藻、光合成色素・蛍光タンパク等について、益々詳しく解明されていくことでしょう。このような情報は我々アクアリストにとって本当に貴重で有り難いですね。研究に関わるすべての方々に心より感謝いたします。

では、前回ご紹介した蛍光タンパクの発光スペクトルから見ていきましょう。

サンゴ蛍光タンパク発光スペクトル

これは発光色のスペクトルだけを集めたモノです。
BFP(ブルー蛍光タンパク)、CFP(シアン蛍光タンパク)、GFP(グリーン蛍光タンパク)、YFP(イエロー蛍光タンパク)、OFP(オレンジ蛍光タンパク)、RFP(レッド蛍光タンパク)、DRFP(ディープレッド蛍光タンパク)を色別に示してあります。

そして、これらの発光スペクトルを得るためには励起波長が必要です。その励起波長を発光強度に応じてスペクトル化したモノがこちらのグラフです。

サンゴ蛍光タンパク励起スペクトル

多くの励起スペクトルのピークが400-500nmに集中していることが読み取れると思います。蛍光タンパクはこのような励起波長強度に呼応して、先ほどの発光スペクトルを生み出しているという訳です。逆に言えば、このような波長範囲を与えないことには、該当する蛍光タンパクは発光できない、とも言えます。

さらに読み取りやすく簡略化したグラフがこちらです。また、これらの励起スペクトルが集中するおよそ380-520nmの範囲を励起帯域(Excitation Band)としてグラデーションで示しました。

サンゴ蛍光タンパク励起スペクトル 簡略グラフと励起帯域

この帯域は、どんな蛍光タンパクどの波長どれだけの強度 で要求しても良いように、満遍なく十分な波長強度を確保したいところです。なぜなら、蛍光タンパクは発色によって大まかにそのタイプは分類できても、厳密にはサンゴの種によって微妙にスペクトル形状が異なります。同種間でさえいくつもパターンがあるほどです。それは先の発光スペクトルや励起スペクトルのグラフを見てもお判りでしょう。よって、「○○nmの波長が△△位あれば良い」なんて法則はありません。ですから、現在のサンゴのみならず、まだ見ぬ未来のサンゴの蛍光タンパクのためにも、常に準備万端な波長ブッフェを構築しておくことが重要になってくるのです(笑)

では、そうした励起帯域をきっちりと確保した製品は一体どれくらいあるのでしょう?
以下は、近年のアクア各社のシステムLEDのスペクトルで、各チャンネルの波長強度が判るように載せてあります。メーカー製品名は伏せますが、上からフルスペクトル順(UV重視)に並べてみました。下にいくほど青白LEDになっていきます(笑)

アクア各社のLEDライトのスペクトル

これらのグラフには光強度は示していませんが、近年の製品は各社とも集光レンズ採用品なので、いずれも十分な光量(PPFD等)は確保されています。また、仮に光量不足が生じたとしても、ライトの設置高さを少し下げることで必要な光強度は確保できるはずです。ま、仮に超浅場SPSを飼育する場合でも、500-1000umol/m2/s程度のPPFDを確保すれば十分でしょう。
と言う訳で、今回は光量については割愛して話を進めます。だって、仮にどんなに高PPFDであっても、必要な波長が欠けてたら蛍光タンパクは励起出来ませんからね。

次に、フルスペクトル製品と青白スペクトル製品の励起帯域の違いを比べてみましょう。
まず、フルスペクトルとは、例えばこのような帯域強度が確保されたスペクトルです。

フルスペクトル (KR93SP)

光合成有効放射域400-700nmのカバーは勿論!と言いたいところですが、あくまで再現すべきは海中スペクトルなので、海中で大きく減衰する赤の波長については、海洋での生体の生理維持を尊重するならば、白LEDに含まれる程度の波長強度で十分と言えます。但し、観賞のための演色の意味では多少の赤も許容されると思います。
とは言え、我々がお節介しなくても、赤の届かない世界で彼らは蛍光や色素を駆使してクロロフィルの赤側要求を満たしていると考えられますから、度を超すとそれらを放棄しかねません。全ては必然。過保護が仇となるケースも十分あり得るのです。
一方、UV系の確保は蛍光ブルーや蛍光シアンのためにも非常に重要で、例えばズバリ400nmを入れることによってスペクトルの立ち上がりを380nm程度まで引き下げ、390nm付近でも相対強度を約4-5割程度を確保することが出来ます。しかし現実には、本体やレンズの耐久性、光強度確保に伴うコストの観点からか、最近は短波長の下限を410-420nmまでとする製品が増えてきました。とても残念な妥協です。。。

一方、昔ながらの青白スペクトルとはこのような特性のスペクトルです。

青白スペクトルLED

基本的に青LEDと白LEDを足しただけの製品はこのようなスペクトルになりがちですけど、中には多様な波長をブレンドしているにも関わらず、その波長強度が十分でないために、青や白の波長強度にかき消され、結局トータルのスペクトルに反映されずに青白スペクトルに落ち着いてしまうケースも予想されます。勿体ないです。波長を入れることがゴールにあらず。入れた波長を活かすも殺すも設計者の腕次第ですから、なんとかトータルのスペクトルに反映させて、青白スペクトルを乗り越えて欲しいと思います。

では、それぞれのスペクトルが、蛍光タンパクに必要な励起帯域をどれくらい確保しているか、具体的に比較してみましょう。

まずは、グレートバリアリーフの水深3Mのスペクトルです。

グレートバリアリーフ水深3Mの蛍光励起ポテンシャル

当たり前ですが、驚異のカバー率です(曝)

次にフルスペクトルです。

フルスペクトルLEDの蛍光励起ポテンシャル

励起帯域カバー率90%てとこかしら。

そして、問題の青白スペクトルです。

青白LEDの蛍光励起ポテンシャル

励起帯域カバー率はせいぜい30%かしら?汗
さすがにここまでくると、相当光量を稼いで励起スペクトルの端でも引っかけないと、特に蛍光ブルーや蛍光シアンの維持は厳しいでしょうね。かと言ってあまりに光量を上げると、突き抜けすぎた450nmで強光障害を招きかねません。そのため、最低限の励起強度の確保と強光障害を回避するギリギリのバランスを探るシビアなコツが求められるでしょう。

青白スペクトルと比べたら、T5の方がまだ有利です。

T5の蛍光励起ポテンシャル

励起帯域カバー率は50%くらいあるかな?
但し絶対的に光量が弱いので、なるべく水面全体がカバーできるサイズで、且つ反射効率の良い灯具を用意して光量を確保し、加えて積極的にActinic球を混ぜれば、蛍光ブルーも蛍光シアンもそれなりに維持出来るようになるでしょう。ただ、手っ取り早くUV系LEDスポットを当てて維持される方が最近増えてきたみたい。賢明です♪

最後に、改めてそれぞれのスペクトルが、浅場の多くのサンゴが持つシアン蛍光タンパクをどれだけカバーできるかを確認して、今回の検証を締めくくりたいと思います。

フルスペクトルLED。

フルスペクトルLEDのシアン蛍光タンパク励起ポテンシャル

青白スペクトルLED。

青白LEDのシアン蛍光タンパク励起ポテンシャル

T5蛍光灯。

T5のシアン蛍光タンパク励起ポテンシャル

例え青白スペクトルと言えども、維持率は決してゼロではありません。
しかし、現状の色維持の成績を裏付けるには十分なロジックだと理解できるでしょう。
それに、常にこんな採点の甘い蛍光シアンがきてくれるとも限りません(笑)

今から15年前、当時ナチュラルシステムによってミドリイシの成長は叶いましたが、色揚げはまだまだ未知の領域でした。当時はその発色が蛍光タンパクなのか色素タンパクなのかさえ知る由もないまま、どの色彩に何か効くのか、皆さんこぞって照明を試行錯誤したものです。そうして、スーパークールの多灯を見いだしたのは、本当に革命的でした。今思えばそうした試行錯誤も、蛍光タンパクの励起帯域を確保する意味で、とても理に叶った手法だったのだと理解できます。そして時は過ぎ、まさか蛍光タンパクひとつひとつの励起スペクトルまでも解き明かす日がやってくるとは。。。しかも僕の係だったとは(笑)

蛍光タンパクは魔法でもミラクルでもなく歴とした光化学です。
必要な波長を当てれば発光しますが、当てなければ発光しません。
確かに蛍光タンパクはアミノ酸の構成物ですが、形を成すことと、機能を発揮することは、また別の話です。どんなにストーブに灯油を入れても、火を着けなければ燃えません。蛍光タンパクを構成するのはアミノ酸、発光させるには励起波長、それだけのことです。

従って、蛍光タンパクが維持出来ない場合、まずはご使用の照明が持つ蛍光タンパクの励起帯域を調べてみてください。メーカーが公開しているスペクトルグラフを見ればおよそ見当がつくはずです。見つからなければ「製品名 スペクトル」でググッてみてください。多分、僕の過去記事が出てくるでしょう(笑)
あるいはスペクトラのアイテムの中を探してみてください。新規に測定したスペクトルを随時追加していますので。

■本日の復習
蛍光タンパクを励起し維持出来るかどうかは、その励起ポテンシャル次第だ!
蛍光タンパクの励起帯域を確保して、あなたも今日からロジカルカラーマネジメントだ♪

次はアミノ酸についてまとめてみます。

■リファレンス

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海中スペクトル測定に最適な防水ケース

この記事を含むタグの全記事リスト: LEDうんちく スペクトル 測定器

年末に投稿したUPRtek MK350にジャストサイズの防水パックですが、その後年明けに投稿したオージーサンゴの大盛り蛍光タンパクの理由でも触れたように、海中スペクトル測定に使用する防水ケースのナイロン素材によっては、400nm以下のUV域のロス量(透過率)が異なるため、測定結果を解釈する際にはその防水ケース特有のUVロス量も考慮する必要が出てきます。そうしたUVロスへの配慮は、UV LED採用時のレンズ選定にも大変重要で、そこを見誤ると今まで僕が散々警鐘を鳴らしてきたようなUV LED焦げ問題(例1)(例2)外部レンズ焦げ問題(例1)(例2)ような事故にも繋がりかねません(図式:UVロス=UVエネルギー衝突=透過体ダメージ)。そう考えると、年明け2発目の東京ビッグサイトでのLEDイベント2015の後半でもご紹介したUV透過率を考慮した東レのシリコンレンズが如何に有用かお判り頂けるでしょう。
そう、年末からのこれら3連記事は、実はすべてシンクロしていたんですね♪
僕は今気付きましたが(曝)
はい。ただの偶然です。東レのシリコンレンズを使う予定はありません(汗)

相変わらず前置きが長くなっております(汗)

そこで、過去に海中スペクトル測定に使用してきた各防水パックも含めて、今後の測定後の補正に役立てるべく、各防水ケースのUVロス特性を調べて比較してみました。

UPRtek MK350が収容可能な防水ケース

上から、

です。

検証手順は、

  1. まず基準光源として、SPSカラーレポートでも使用している5000Kハロゲンを測定。
  2. 各防水ケース越しで上記基準光源のスペクトルを測定。
  3. 1.と2.からUV透過率を計算しグラフ化

UV透過率の計算式はこんな感じ。

UV透過率計算式

但し、積分の式の書き方はあやふやかも(汗)

ホントは太陽光を測ろうと思ってたんだけど、天候がイマイチだったのと、太陽光だと測定ポイント(空の位置)によってスペクトルが結構変動するので、固定的な安定スペクトルの確保を優先して、敢えてフルスペクトルなハロゲンを利用することにしました。
ちなみにスペクトロメーターはUPRtek MK350ASEQ LR1を使用しました。

まず、MK350でのグラフ比較から。

ベース光源 5000Kハロゲンと各防水ケースのUVロス特性 (MK350グラフ)

はい。これじゃ違いがサッパリ判りませんね(笑)
なので、こうした検証には生データ(エクセルファイル)の方を用います。
その結果がこちら。

まず、基準光源5000Kハロゲンのスペクトルです。

ベース光源 5000Kハロゲン (MK350)

そして、各防水ケースの測定結果から算定したUVロス特性グラフがこちら。

各防水ケースのUVロス特性 (MK350)

なんか粗い気がするし、420-430nmあたりに不可解な凹みが。。。笑
はい、実はこの手の検証にはMK350は向きません(汗)
なので、こういうのは高精細な分解能を持つLR1にお任せください♪

まず、基準光源5000Kハロゲンのスペクトルです。

ベース光源 5000Kハロゲン (LR1)

* MK350に比べ長波長側の感度が低いのはLR1のUV仕様の特性です

そして、各防水ケースの測定結果から算定したUVロス特性グラフがこちら。

各防水ケースのUVロス特性 (LR1)

おおお! 僕が元々使ってたDryCaseがダントツで優秀でした♪
(400nm以下がフラットで高推移なほどUVロスが少ない特性と言う事になります)
一方、年末に紹介したCASE FACTORYや和田さんが使用したモノは結構UVロスが大きいようです。ま、このデータがあればどれで測定しても補正は可能ですが、元々の測定結果がUVロスを含まないに越したことはないので、やはりDryCase社からiPhone6 PLUS用の大きな防水ケースがリリースされるのを待った方が良いかも知れません。ま、同じナイロン素材を使ってくれればの話だけど(汗)

尚、グラフの370nm以下の乱れは、そもそもハロゲン自体が370nm以下をほとんど含まないため、測定値に占めるノイズ成分が大きく、減衰率の算定結果に影響を与えるためです。いつかもっとUVA域を多く含む光源が確保できたらリベンジしてみます。
とりあえず今回はこれで我慢してください(笑)

あ。
でも、MK350持って海中スペクトル測る人なんて、ほとんどいないか(曝)

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