画像は発光する蛍光タンパク質、Tsien Laboratoryより
以前ご紹介したエダコモンのオレンジポリプ発現個体以来、蛍光色素について色々と調べていました。今回はそれをちょこっとメモ程度にまとめてみます。
まず、僕は今までサンゴの蛍光色を、ただ漠然と「蛍光色素」と表現してましたが、その方面?での用語の使い分けに際し、蛍光物質には「蛍光色素」や「蛍光タンパク質」があり、どうやらサンゴのそれは蛍光タンパク質と言い表すのが適切であるようです。
で、それらを大まかに区別すると、およそこんな感じのようです。
蛍光 |
蛍光色素 |
蛍光タンパク質 |
成分 |
化学合成 |
生物由来 |
特徴 |
低分子 |
蛍光強度が高い |
用途 |
細胞や染色体などを染色 |
遺伝子工学によるタンパク質の追跡 |
まず、蛍光色素には非常に多くのバリエーションがあります。
以下の資料は参考程度にご覧下さい。
一方、生物由来である蛍光タンパク質には、我々も非常に関心の高いサンゴ由来の蛍光タンパク質がいくつか抽出・生成されています。
- Fluorescent Proteins (PDF)
ミドリイシ・シアン
ウミキノコ・グリーン
アザミ・グリーン
クサビラ・オレンジ
桂馬/Keima570(赤)(コモンサンゴ)
ドロンパ/Dronpa・グリーン(キッカサンゴ)
カエデ/Kaede(緑・赤)(ヒユサンゴ)
その他…
- Living Colors Fluorescent Proteins (PDF)
RCFP (reef coral fluorescent proteins/造礁サンゴ由来蛍光タンパク質)
シアン(AmCyan1)
緑(ZsGreen1)
黄(ZsYellow1)
赤(DsRed-Monomer、DsRed2、DsRedExpress)
深赤(AsRed2、HcRed1)
- Keima-Red
mKeima 440nm-620nm
dKeima 440nm-616nm
dKeima570 440nm-570nm
厳密な励起波長・発光波長は別としても、多くは普段から僕らも観察し見慣れているサンゴの蛍光色ですね。
各蛍光タンパク質の紹介はここまで。各々の特徴・詳細については割愛します。
興味があれば必要に応じて検索してみてください。
そして、肝心の蛍光タンパク質の働きについて、有用な情報もひとつご紹介します。
刺胞動物と蛍光タンパク質 (PDF)
以下、引用。
採集した蛍光性サンゴと非蛍光性サンゴに強い紫外光を照射すると、後者においてより顕著に光合成阻害が認められた。
-
この結果から、蛍光タンパク質が褐虫藻を強い日光から保護することが示唆された。
-
実際、1998年に大堡礁で起こったサンゴの大規模な白化現象においてサンプリングしたものを調査したところ、蛍光タンパク質を発現する個体ほど白化しない傾向が確かめられている(Salihetal.2000)。
確かに蛍光色の励起は、青を吸収しての緑・赤励起、そして紫外線を吸収しての青・シアン励起などがあり、その意味では有害な紫外線を安全な可視光線にシフトしていると言う点で、対紫外線機能のひとつとも言えます。これは昔からよく言われる対紫外線色素のMAAsとはまた別の反応です。
例えば、浅場のミドリイシとして有名なスギノキミドリイシの特にブルー個体に於いては、この蛍光タンパク質によって積極的に紫外線を青色やシアンへシフトしていることが判ります。逆に言えば、どうして浅場のスギノキが青いのか、その裏づけとも言えるでしょう。
実際にブルーのスギノキや他の蛍光サンゴに青色や近紫外線の光を当てて、それぞれの蛍光タンパク質がどのような蛍光反応を示すか、我が家の個体で試してみました。
仮に、グリーンのエダコモンの蛍光タンパク質をGFP(Green Fluorescent Protein)、オレンジのエダコモンの蛍光タンパク質をRFP(Red Fluorescent Protein)、スギノキの蛍光タンパク質をCFP(Cyan Fluorescent Protein)としますと、GFPやRFPは青色~シアンの光でもっとも強く反応(吸収極大)し、スギノキのCFPは近紫外線の400nmが吸収極大であることが判ります。
また、スギノキの蛍光タンパク質について更に詳しく観察してみました。
最近気づいたのですが、このスギノキの場合、共肉は強いシアン蛍光ですが、実はポリプにも発光強度が弱いながらも蛍光発光があることが判りました。UV 400nmを当てると、ポリプが薄っすらとロイヤルブルー(あるいはブルー)を帯びているのです。
でも写真にはうまく写らない。。。判るかなぁ?
でも発光量が弱すぎて初老の老眼にはチト確認が辛い。。。気のせいだったりして(汗)
このことからも、スギノキブルーには適度な紫外線を当てるべきだと言えるでしょう。
そうでなければ、自然光下で見られる本来の濃ゆいブルーが発現できないと思われます。
これまでのようなメタハラや蛍光灯の環境では意識せずとも含まれていた紫外線も、オールLEDの水槽では意図的に入れる必要性が生じますので、可能であればUV入りLEDランプを併用することが理想的です。
ただ、ご使用のランプの中に一般白色LEDが混じっているならば、幸い蛍光体による励起波長範囲に僅かな近紫外線域が含まれますから、スギノキブルーの青みもそれなりに出ると思います。でもフルブーストを掛けるなら是非UV入りを入れたいところです。
尚、RGB白色LEDの場合は蛍光体励起が無い分、近紫外線は一切含まれていないため、青蛍光やシアン蛍光は得られず、単なる青光成分による演色効果でしか青みは得られません。この場合、UV入りランプは必須となるでしょう。
さて、今回自分なりに時間を掛けて蛍光タンパク質について調べてみたつもりでしたが、それで蛍光グリーンのエダコモンサンゴのポリプに蛍光オレンジが乗った原因が判ったのか?と言うと、それが結局さっぱり判りませんでした♪
人為的に蛍光タンパク質の発光色・強度を改変する場合、その蛍光タンパク質の遺伝子クローニングののち、DNAのアミノ酸配列を組み替えることで実現するそうですが、そういう変化が自然下でも起こるのか、それとも単に異なる蛍光タンパク質を獲得したのか、と考えると、やっぱり後者の方が自然の成り行きかな?
でも、当時は蛍光オレンジなんて水槽のどこにも無かったんだけどなぁ。。。
実は蛍光タンパク質は細菌の如くどこにでも存在するモノなのか!?
そういえばサンゴのプラヌラ幼生も、最初は持ってないはずの褐虫藻をいつのまにか取り込んでるようだし。。。
ただ、ひとつ気になるのは、このようなエダコモンの現象は今までに一度も見たことがなく、今回LED環境で飼育してみて初めて遭遇した現象だと言えること。まさかLEDの破壊的な光線により遺伝子が組み替えられた!?・・・なんてことはないよね(笑)
と言うわけで、答えは先送りです。
尚、念のため補足しますが、サンゴの色彩を決定づけるのは蛍光タンパク質だけではありません。褐虫藻自体の色、密度、そしてクロロフィルやカロテノイド、フィコビリンのような光合成色素など、さまざまな要因により見た目の色彩が形成されていると思われます。
その他の参考関連情報
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