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懲りずに書いてみたりする結果オーライな日記

赤い色素タンパクの吸収スペクトル

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今回は、今まであまり詳しく触れてこなかったハナヤサイやトゲサンゴの赤い色素タンパクについて、やや突っ込んだところまで触れてみようと思います。

思えば、僕が非蛍光の赤いサンゴの色素について言及を始めたのは・・・忘れた(笑)
・・・調べてみたら2009年末からでした。

  • 紫外線LED:応援部隊 - 2009/12/21

    フィコビリン系の青や赤の色素が優位に立って発現している色彩ならば、オレンジ帯域とグリーン~イエロー帯域、あと紫外線少々、てとこかしら。…

  • 紫外線LED:各ミドリイシの色彩変移 - 2010/1/3

    …白LEDに含まれる緑~橙の波長域により、フィコエリトリン系の鮮やかな赤の色素の発現にも有利に働き(色素が存在した場合)…

そう、この時期はまだハナヤサイやトゲサンゴ等の赤い色素タンパクを僕は特定できておらず、あくまでも海藻由来の赤い光合成色素フィコエリトリンに見立てて仮説を展開していました。はい、色素タンパクという言葉すら知らない時期です(汗)

* フィコビリンのうち、赤の色素タンパクがフィコエリトリン、青の色素タンパクがフィコシアニン

また、この頃は特にスギノキブルーの青い色素の正体解明に躍起になっていた時期で、その正体の根幹がブルー蛍光タンパクシアン蛍光タンパクであると確信する少し前の時期でしたから、相変わらず青い海藻の光合成色素フィコシアニンをスギノキブルーの色素タンパクに見立て、橙の波長を中心としたアンバー光を当てる事にこだわっていました。

色素タンパクの色揚げに有効な電球色LED

そうして、サンゴの赤や青の非蛍光色素を促進するには緑から赤に掛けての波長の照射が必要であるという仮説に基づき、実験を進めていた訳です。

それからしばらくして、予想通り実験ミドリイシがデコライト電球色2700Kの照射によってみるみる赤くなっていった事で、仮説は確信に変わりました。

アンバー光を当てて色揚げした赤い色素タンパク

この結果を経て、やはりサンゴの赤い色素タンパクもフィコエリトリンと似た特性を持つという確信に至りました。そしてそれは、その後の協力者の皆さんらによる実験でも、同様の効果が確認されていきました。
また、このフィコエリトリンが要求する吸収スペクトルのピークは緑の波長540nm前後ですから、そこから派生して

アクアT5の緑の突出ピーク波長540-550nmもトゲサンゴやハナヤサイに効く!

とも解釈しました。
そう、今でこそトゲサンゴには緑の波長というのは既知のノウハウになりましたが、そもそもこれは僕のフィコエリトリンの仮説から導いた解釈です。

赤い光合成色素フィコエリトリンの吸収スペクトルとアクアT5の3波長スペクトル

それから3年が経ち、僕もより高度な検証に取り組むようになりました。
そして2013年5月、ついにSPSの吸収スペクトルを自分で測定するまでに至りました。
すると、それまでの認識が塗り替えられる結果が得られました。
トゲサンゴのピンクや赤の色素タンパクが要求する吸収スペクトルは、フィコエリトリンとは若干特性が異なっていたのです。

↑トゲサンゴの反射スペクトルから抽出した吸収スペクトルの例(緑色のグラフ)
* 赤色のグラフは既知の赤系SPSの色素タンパク

あら、、、トゲサンゴの吸収スペクトルのピークって緑の波長じゃなかったのね!
確かに、他の文献 1. 2. 3. を見ても、多くが560-600nmの間に集中してますね!
てことは、必要だったのは橙の波長580nm前後かっ!
しかもそれは赤に限らず、青や紫などほとんどの色素タンパクに見られた特性でした。
サンゴの鮮やかな色素タンパクは、橙の波長580nmを欲するんだぜ~!

サンゴの色素タンパク36種の吸収スペクトル

改めて、赤系の色素タンパクとアクアT5のスペクトルを比べてみましょう。

赤い色素タンパクの吸収スペクトルとアクアT5の3波長スペクトル

そう、アクアT5が持つ緑の波長540-550nmは、相手がフィコエリトリンであれば吸収ピーク540nmをジャストミートできましたが、実際のトゲサンゴの色素タンパクの吸収ピークは570-590nmに集まっていたので、やや的外れな帯域を叩いていたことが判ったのです。しかもアクアT5の緑は帯域幅が10nm程度しかないので、叩ける範囲はかなり狭くピンポイントでした。にも関わらず、結果的にアクアT5でもトゲサンゴの色揚げに効果が得られていたのは、アクアT5の緑の波長強度が飛び抜けて強い事と、少なからず含まれている橙の波長580-590nmによる作用が要因ではないかと考えられます。
(簡単に言えば、100点は届かないけど50点を2倍で叩いて100点達成♪、みたいな)
また、色素タンパクの特性によってはアクアT5と相性の良いタイプもあり、例えばCP-560系あたりなら吸収ピークのおよそ8合目は叩けているように見えます。しかし、逆に吸収ピークの離れたCP-593系あたりに対してはせいぜい4合目しか叩けず、色揚げ率は半減するかも知れません。その場合、やはりフラットスペクトルの蛍光灯の方がオールマイティな色揚げが期待できそうです↓

赤い色素タンパクの吸収スペクトルと一般T8のフラットスペクトル

一方、デコライト2700Kのスペクトルカバー率は秀逸でした。改めて感動です↓

赤い色素タンパクの吸収スペクトルと電球色LED 2700Kのスペクトル

しかし、そのさらに上を行くスペクトルがあります。それが、KR93XP/KR93SPにも搭載されている580nmピーク・ニュートラルホワイト4000K LEDです↓

赤い色素タンパクの吸収スペクトルと温白色LED 4000Kのスペクトル

デコライト2700Kの赤630nm大盛りのスペクトルも良いのですが、陸生植物や水草と違い、サンゴに対してはちょい赤が強すぎる。。。それは、SPSカラーレポートからも判明しましたが、多くのサンゴは赤630nm前後の波長はあまり積極的には利用していませんでした。色素タンパクの要求580nmやクロロフィルaの660nmに対しては大きく窓口を開いているにも関わらず、赤630nmに対してはほとんどのサンゴが窓口を閉ざしていたのです。それは赤いサンゴに関わらず、他の色彩のサンゴでも同様の結果でした。
これはもしや・・・大半のサンゴは630nm前後の赤を嫌っていると言う事か?

そう言えば、こんな実験結果も出てましたよね。

赤光でサンゴが白化・・・

本来、海中にはあまり強く存在していない赤光のサンゴへの悪影響を考慮すると、やはりサンゴ用照明に用いるのは、630nmにピークを持つ電球色のウォームホワイト2700Kよりも、580nmにピークを持つ温白色のニュートラルホワイト4000Kを使用した方が、危険要因を排除するという意味では無難な選択肢と言えそうです。
ちなみに現時点での僕の赤光に対する解釈は、あくまで他の波長との強度バランスに極端な差異がなければ、単独で照射しない限り悪影響は薄いとみています。

赤系色素タンパクの吸収スペクトルに対するKR93XPの白チャンネルのカバー率↓

赤い色素タンパクの吸収スペクトルとKR93XP Wchのスペクトル

またもう一つの補足として、色素タンパクにはUV 400nmによる更なる色素濃縮効果(赤→赤紫化、青→青紫化)が挙げられます。これは植物の場合でもブルーベリーや赤い果実の色素濃度を促進するのが紫外線である事からも判るように、サンゴでも紫外線バリアとしての色素濃度促進効果が期待できます。勿論、多くのサンゴが持つもうひとつの紫外線バリアとしての蛍光タンパク(特にシアン蛍光より短波長励起蛍光タンパク)も、このUV 400nmによって強力に促進される事が確認されていますので、ことサンゴの色揚げに関してはUV 400nmは色んな面で欠かせない波長となっています。

KR93XPによるハナヤサイ・トゲサンゴの発色例↓

KR93XPはアンバー光確保のためにKR93SPと比べ約半分の量のUV素子をニュートラルホワイト素子に置き換えています。とは言え、それでも巷の製品よりは断然強いUV量が確保されています。

以上、サンゴの色素タンパクの色揚げに役立てて頂ければ幸いです。

こちらのエントリーもどうぞ♪

蛍光灯スペクトル早見表

この記事を含むタグの全記事リスト: T5 スペクトル 海洋雑学 蛍光灯

ふと、
蛍光灯だけでも今までどれくらいのスペクトルを調べたんだろう?
と思って、過去の記事を遡ってみました。

  1. GIESEMANN - PowerChrome midday
  2. GIESEMANN - PowerChrome aquablue plus
  3. GIESEMANN - PowerChrome Lagoon plus
  4. GIESEMANN - PowerChrome actinic plus
  5. GIESEMANN - PowerChrome pure actinic
  6. ATI - Aquablue Special
  7. ATI - Blue plus
  8. ATI - Actinic
  9. Wave Point - Tropical Wave
  10. Wave Point - Sun Wave
  11. Wave Point - Super Blue 460 (Blue Wave)
  12. Wave Point - Reef Wave
  13. Wave Point - Coral Wave
  14. SFILIGOI - Ultra White
  15. SFILIGOI - Deep Blue
  16. SFILIGOI - Super Actinic Blue 03
  17. UV Lighting - Aquasun
  18. UV Lighting - 454
  19. UV Lighting - Super Actinic
  20. UV Lighting - Actinic White
  21. KZ - 50%-50% (CoralLight 10000K)
  22. KZ - New Generation (14000K)
  23. KZ - Fiji Purple
  24. KZ - Super blue (20000K)
  25. JBL - Solar Ultra NATUR
  26. JBL - Solar Ultra Marin Blue
  27. VITA-LITE - 5500K
  28. VITA-LITE - 5500K (電球型)
  29. 東芝 - FL20SB 青色
  30. 東芝 - FL20SBW 青白色
  31. 東芝 - FL20SF 生鮮食品用 昼白色 5000K
  32. 東芝 - FL20SN-SDL ネオラインデラックス 昼白色 5000K AA
  33. 東芝 - FL20SN-EDL 色評価用 昼白色 5000K AAA
  34. 東芝 - FL20SD-EDL-D65 色比較・検査用 D65 昼光色 6500K AAA
  35. NEC - FL20SB 青色
  36. NEC - FL20SN-SDL 高演色彩 昼白色 5000K AA
  37. Panasonic - FL20SN-EDL 高演色性 昼白色 5000K AAA
  38. Panasonic - FL20SN-EDL-NU 美術・博物館用 昼白色 5000K AAA
  39. 三菱 - FL20SN-SDL ハイデラックス 昼白色 5000K AA
  40. 三菱 - FL20SN-EDL-NU 色評価用 昼白色 AAA
  41. JEFCOM - FT5-14BK ブラックライト (360nm)
  42. OHM - TB-14/BLB ブラックライト (370nm)
  43. EXO-TERRA (GEX) - Repti Glo 10.0
  44. EXO-TERRA (GEX) - Repti Glo 5.0
  45. EXO-TERRA (GEX) - Repti Glo 2.0
  46. ZooMed - ReptiSun 10.0
  47. ZooMed - ReptiSun 5.0
  48. ZooMed - ReptiSun 2.0
  49. HERP-CRAFT (SUDO) - UV-MASTER Level 8
  50. HERP-CRAFT (SUDO) - UV-MASTER Level 5
  51. Pogona-Club - VIVARIUM GLOW Power UVB
  52. Pogona-Club - VIVARIUM GLOW Soft UV
  53. EXO-TERRA (GEX) - Repti Glo 10.0 (電球型)
  54. EXO-TERRA (GEX) - Repti Glo 5.0 (電球型)
  55. EXO-TERRA (GEX) - Repti Glo 2.0 (電球型)
  56. ZooMed - ReptiSun 10.0 (電球型)
  57. ZooMed - ReptiSun 5.0 (電球型)
  58. Vivaria - Repro UVB 10.0 Desert Sun (電球型)
  59. Vivaria - Repro UVB 5.0 Forest Sun (電球型)
  60. Vivaria - Repro UVB 2.0 Natural Sun (電球型)
  61. Kamihata - UVB Reptile (電球型)

自分で買ったモノだけで上記60種以上ありました(汗)
ま、UVB蛍光灯はアクアには直接的に関係は無いけど。。。

上記スペクトルを掲載した記事のリンク集
GIESEMANNATIWave PointSFILIGOIUV LightingKZJBLVITA-LITET8蛍光灯 (東芝/NEC/Panasonic/三菱)ブラックライト (JEFCOM/OHM)UVB蛍光灯 (EXO-TERRA/ZooMed/HERP-CRAFT/Pogona-Club/Vivaria/Kamihata)

アクアT5蛍光灯スペクトルグループ早見表

さすがにこれだけ調べると、アクアT5のスペクトルの規則性が嫌でも見えてきます(汗)
もはや、スペクトルの早見表が作れるレベルです♪

と言う事で、以下のようにまとめてみました。

マリンアクアリウム用T5蛍光灯グループ (3波長型)

アクアメーカー各社で、Blue系とActinic系は同一スペクトル、White系は多少の3波長のバランスの差異はあるものの、補完できる帯域はまったく同一です。また、ピンク系バルブも中身は青+赤なので、演色以外で混ぜる意味はありません。
但し、唯一Wave PointのUltra Growth Waveのように植物育成用のような660nmピークの蛍光体をブレンドしたモノもあります。なので、この球を使えば、直接的にクロロフィルaの赤側の要求に応える事が出来そうです。但し、褐虫藻のクロロフィルは喜ぶとしても、それによって光合成効率が必要以上に高まれば、特に蛍光レッドを持つサンゴあたりは、「あれ?可笑しいな?赤の波長が届く浅海域に来ちゃったかな?じゃあもう赤の波長を稼ぐための蛍光レッドは要らないかな?」と判断して、蛍光レッドを放棄しちゃう懸念もあるので、使用に際しては注意深い観察が必要です。例えば、スコリミアの蛍光レッドが後退して蛍光グリーンが占有するような場合は、サンゴをより暗い位置へ移動するか、光源の赤の波長強度を下げるなどの対処が必要です。
こうした挙動は、すべては「必然」について考察すると見えてきます。人間で言えば、外的なステロイド投与によって本来の副腎皮質からのステロイド分泌が減少してしまうようなモノです。生物が生理の均衡を維持するための適応に過ぎません。

尚、JBL Solar Ultra COLORも公称スペクトルを見る限り660nmの存在が見て取れますが、前回の調査でJBLは波長詐欺があまりに酷かったので、信用できるのかどうかは知りません。自己責任でお使いください(汗)

フラットスペクトルT8蛍光灯スペクトルグループ早見表

そして、そんな波長の欠落の多いアクアT5に、是非とも使って欲しい蛍光体構成を持つ国内のT8蛍光灯も早見表にまとめてみました。

フラットスペクトルを持つ国産T8蛍光灯グループ

こうした有益なスペクトルを持つT5バルブが、かつてアクア各社からリリースされてこなかった事が本当に悔やまれます。唯一期待したJBLさえ詐欺でしたし。。。

ただ、アクアT8に関しては、少ないながらも美味しいスペクトル製品があるようです。
例えば、スドーのオーシャンクリア 7800K

スドー オーシャンクリア

このスペクトルが本当なら、フルスペクトルを謳う資格は十分にありそうです♪
ちなみにスドーにはあと数種類のフラットスペクトルバルブがありました。
スドー凄いな。。。今度測定してみよう。。。

さて、上記フラットスペクトルを持つ蛍光灯の実測スペクトルもグループ分けしました。
上から、ワイドバンドブルー昼光色(UV 400nm+)昼白色 5000K、です。

グループ メーカー型番
ワイドバンドブルー 東芝 FL20SB 青色
NEC FL20SB 青色
PRINCE FL8B 青色
東芝 FL20SBW 青白色
昼光色(+UV 400) 東芝 FL20SD-EDL-D65 色比較・検査用 D65
NEC FL8D 昼光色
東芝 FL20SF 生鮮食品用
NEC FL20SN-SDL 高演色彩
VITA-LITE 5500K Ra94
昼白色 5000K 三菱 FL20SN-SDL ハイデラックス
Panasonic FL20SN-EDL 高演色性
東芝 FL20SN-EDL 色評価用
東芝 FL8N-EDL カラーイルミネーター用
Panasonic FL20SN-EDL-NU 美術・博物館用 紫外線吸収膜付
三菱 FL20SN-EDL-NU 色評価用 紫外放射吸収タイプ

フラットスペクトルT8蛍光灯の実測スペクトル

どうです? この美味しそうなスペクトルの数々。。。

せめて今、一般T8蛍光灯をお使いの方でフルスペクトルの理解を得られた方には、早速これらのフラットスペクトル蛍光灯をお試し頂きたいと思います。しかし、残念ながらT5に合うバルブはまだ無いので、それについては今後に期待して欲しいと思います。

海洋性光合成生物が持つ各色素に関する考察

前回はざっくりと2本の蛍光灯の組み合わせだけご紹介しましたが、より厳密にスペクトルを吟味されたい方のために、改めて海洋性光合成生物の色素に関する情報を以下にまとめておきますので参考にしてください。

まず、海洋には海藻やサンゴ等が持つ色素が多様に存在しますが、大きく分けると以下のような光合成色素色素タンパク蛍光タンパクに分類されます。
一口に「海洋」と言っても、水深によって届いている波長分布が異なりますが、まずは浅場から深場まで以下のような種類が確認されています。

海洋性光合成生物が持つ各色素

*光合成色素は視覚でとらえるフォトサイエンス生物図録(数研出版)より
*色素タンパクと蛍光タンパクはAdvanced Aquaristより
http://www.advancedaquarist.com/2006/9/aafeature
http://www.advancedaquarist.com/2006/11/aafeature2
http://www.advancedaquarist.com/2007/6/aafeature2
http://www.advancedaquarist.com/2007/7/aafeature1
http://www.advancedaquarist.com/2012/12/corals
http://www.advancedaquarist.com/2013/11/corals

これはきっと海洋全体で見ればほんのごく一部に過ぎないのでしょうが、少なくともこれだけを見ても、海中に届いている波長が下から上まで隈無く利用されている事が読み取れます。そう、可視光線400-700nmに於いて、省いて良い波長は見当たりませんね。それは、上記の色素の吸収スペクトルをすべて重ね合わせ、海中の水深スペクトルと比べてみれば、より明確に判ります。

海中のスペクトルと海洋性光合成生物の色素の吸収スペクトル帯域

あとは、水深を増す毎に海中に届く波長は赤から順に減衰していきますから、目的のサンゴによって当てるべき波長の帯域は制限されていく事がお判り頂けると思います。深場なら主に蛍光タンパクのために400-500nmを中心に当てたり、浅場ならトゲやハナヤサイのような色素タンパクのためにアンバー580nmを中心とした波長も盛り込んでいく、勿論それらが破綻しないように水槽内に於いてもサンゴを適切に垂直分布させる、等の考察と工夫が必要になってきます。深場のサンゴを上に配置して浅場のサンゴを下に配置してしまったら、どんなに照明を工夫しても、深場サンゴに赤が強く当たったり、浅場サンゴにアンバーが足りなかったり、どっちつかずになりますからね。

ただ、現状のT8の問題は光量の確保です。灯具のサイズから言っても、水槽の上に並べられる数は必然的に決まってきます。例えば60cmの規格水槽なら、せいぜい一般2灯式灯具を前後に2台載せるのが限界でしょう。てことは20W×4=80Wか。うーん。。。
でも水槽直置きなら水面距離10cm程度だし、ギリギリ水中照度が確保できるかな?

と言う事で、前回の2本の組み合わせ例でそれぞれ照度/PPFD/UVを測ってみました。

用途 20W×2灯式灯具
2本 組み合わせ
水槽直置き10cm距離光量
JIS照度
lx
PPFD
umol/m2/s
UV(A+B)
uW/cm2
一般照明 NEC FL20SSEX-D/18-HG ×2
(3波長 昼光色 6700K)
14,030 237 8.8
超浅場SPS 東芝 FL20SB 青色 5,880
(11,760)
131
(262)
43.8
(87.6)
東芝 FL20SF 生鮮食品用 昼白色
浅場SPS 東芝 FL20SB 青色 5,458
(10,916)
116
(232)
44.2
(88.4)
NEC FL20SN-SDL 高演色彩 昼白色
好日ソフト NEC FL20SB 青色 6,172
(12,344)
131
(262)
24.8
(49.6)
NEC FL20SN-SDL 高演色彩 昼白色
深場LPS NEC FL20SB 青色 6,272
(12,544)
145
(290)
24.3
(48.6)
東芝 FL20SBW 青白色

* 上記は2灯式灯具1基(20W×2)での実測値で、括弧内は単純に2倍にした値

上記灯具を2セット水槽に直置きにするなら、各値は照度10,000lx、PPFD 200umol/m2/sをクリアしそうです。まあ、それでも暗いかなぁ。。。
浅場のソフトコーラル~深場のLPSくらいが無難かな?

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アクアT5進化論のための波長と演色講座

この記事を含むタグの全記事リスト: スペクトル 海洋雑学 蛍光灯

2014年1月、、、早くも月末ですが、、、

明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。

お陰様で、1.023worldも遂に17年目に突入しましたよ。。。
17年って言ったら軽く女子高生が育っちゃいますよ。。。
恐ろしい。。。

さて、2014年ブログ第一弾はナニ書こうか・・・
スプリング問題は・・・暗いので後回し・・・汗
うーん・・・何か明るい話題を・・・
明るいと言えば・・・照明か?

じゃあ、前回の続きって事で、アクアT5の未来を探ってみましょう。
如何に現状の欠点を克服し、明るい未来の光に進化できるか!?
この機会に、光合成に関わる多様な色素を知り、波長と演色を正しく理解しましょう♪

まず、アクアT5バルブを各色ブレンドする意味から解説

アクアT5に関しては、未だにこんな文言を見かける事がありますよね。

「いろんなバルブを組み合わせることで波長が補完される」

しかしその文句が通用するのは、唯一420nmピークのActinicバルブを足す時だけです。
それ以外のバルブは、青も白もピンクも、残念ながら何を足そうと波長構成がまったく変わりません。

例えば、以前T5レビューまとめで測定したデータをすべて合成するとこうなります↓

アクア各社T5スペクトル

波長分布が見事に偏っているのが判ると思います。波長構成は主にに分かれていて、これらを足して作られた疑似白色が、アクアT5にも多い3波長蛍光灯です。
よって、どのバルブを何十本足しても、随所の波長の欠落が補完される事はありません。原因は、ほとんどのアクアT5バルブが、このような一般蛍光灯と同じ3波長蛍光体の流用・転用でまかなわれているからです。
そのため、アクアT5でバルブを混合する目的は、決して波長補完のためではなく、単なる光量確保か、演色(鑑賞)目的と言う事になります。そう、現状のアクアT5は、残念ながら「サンゴが必要としている波長の照射」には特化しておらず、あくまでもバルブの混合により青と緑と赤の比率を変化させて「好みの反射光を鑑賞する演色効果」を得ることが使命だからです。よって、一部の欠落した波長を要求するサンゴの色素にとっては、いずれ褪せるか消失していく運命にあります。それがT5での色落ちのカラクリと言えます。

改めて、アクアT5のバルブ混合に関しては、

「いろんなバルブを組み合わせることで好みの演色を楽しめる」

と言い表すのが正解と言えるでしょう。

T5バルブを供給してきたアクア各社の大罪・・・

なぜ、こんなことになったのか。。。
それは、あくまでも人間向け照明でしかない一般白色蛍光灯(蛍光体)を、アクアメーカー各社がそのままアクアに流用・転用したからでしょう。

そもそも我々人間の目は、「青+緑+赤=白に見える」と言う特性を持つため、あくまで我々の目を欺くだけなら、光源の波長はフルスペクトルである必要はありません。青と緑と赤がそれなりに混ざってさえいれば十分です。実際、3波長白色蛍光灯は最低限必要な蛍光体構成(青+緑+赤)しか入ってません。それでも擬似的に見える色は白だけではなく、シアンの波長が入ってなくても青+緑=シアンに見えますし、紫の波長が入ってなくても青+赤=紫が見えますし、黄の波長が入ってなくても緑+赤=黄も見えます。とにかくこの青・緑・赤の3色さえあれば、我々の照明としては十分に役を成すのです。

光源により「見える色」と、実際に含まれている波長の関係を具体的に見てみましょう。

光源により見える色と、実際に含まれる波長

蛍光灯は、その色を示す波長が入っていなくても、青・緑・赤の3色さえあれば、我々の目にはそれらの色・波長があたかもそこに存在するかのように見えてしまいます。それが、鑑賞面での感想として「蛍光灯は綺麗だなぁ・・・」と思ってるうちはまだ良いのですが、時に「蛍光灯は正しい色が映るなぁ・・・」と間違った解釈を招き広める危険性もあります。しかし、所詮それは虚構の色なのだと理解しなければなりません。
例えば、蛍光灯の部屋でバナナを見ているとします。一見、黄色く見えています。しかしそれはバナナ本来の色を表すための黄色の波長による発色ではなく、蛍光灯が持つ緑と赤の波長による緑+赤=偽物の黄色であり、真の黄色では無いのです。(3波長白色蛍光灯には多少の橙の波長も含まれるため実際にはもう少し黄色はマシに見えます)
このように、波長の有無に関係なく色を演じる事を、演色と言います。

ちなみに、演色性と言う指標も、色が綺麗に見えるかどうかを表した評価に過ぎませんから、演色評価数が高いからと言って光合成生物に必要な波長が十分に含まれていると言う事にはなりません。仮に今、青と赤による虚構の紫の光が降り注いだとしても、真の紫の波長を要求する光合成生物にとっては何の役にも立たない訳です。

以下は、アクアT5でも多い3波長白色蛍光灯の演色評価数を表したグラフです。

一般的な白色蛍光灯の演色性 グラフ引用元:TAISEI E&L.

演色評価数は、Ra1~Ra8までの代表的な平均演色評価数と、Ra9~Ra15までの特殊演色評価数で表されます。
例えば、蛍光灯の場合、シアン500nmの波長の含有率は極めて低いのですが、それを擬似的に表す青と緑の波長が強いので、Ra6の水色は十分に表現されています。しかし、このグラフのようにRa9の赤が弱いバルブの場合、緑+赤=黄も影響を受けるので、結果的に黄色を表すRa10も弱くなっています。特にこのような原色ほど波長不足の影響が顕著に表れます。一方、中間色の場合は、色再現性に原色の強度をあまり必要としないので、波長不足でもそれなりに近似値が得られ、Ra2の橙色のように評価が高くなる傾向があります。そのような関係がグラフから読み取る事ができると思います。

3年前の演色性の記事の際に作成した懐かしい画像も参考にしてください。

光源による色の見え方と演色性

3波長蛍光灯での黄色や赤の見え方に注目です。くすんでいるのが判ると思います。
このような波長条件で、果たして真の正しい色が見えるのでしょうか。。。
このような偏った波長を光合成生物に割り当てたら、果たしてどうなるのでしょう。。。

太陽光を利用する生物のためのスペクトル追求

1. 光合成色素とサンゴの色素タンパクと蛍光タンパクの要求波長帯

人間以外の生物、特に光合成生物などは、当たり前ですが太陽のフルスペクトル光を利用しています。ま、仮に特定の生物だけで見ればその波長の利用範囲は一部に限られるかも知れませんが、自然界には多種多様な光合成生物が存在するため、安易にクロロフィルだけをカバーした青+赤の照明ではなく、カロテノイドフィコビリンなどの色素も考慮に入れた波長構成の照明を用意しなければなりません。ましてやサンゴを飼育するなら、紫~青~シアン(400-500nm)の波長帯域を十分に確保しないと、多様な蛍光タンパクが維持できません。それが、サンゴ飼育、特にサンゴの色揚げにフルスペクトル光が求められる理由です。

改めて、光合成色素、サンゴの色素タンパク・蛍光タンパクの要求を見てみましょう。

光合成色素、色素タンパク、蛍光タンパクの吸収スペクトル

少なくとも光合成有効放射(400-700nm)に於いて、省ける波長はありませんね。
どうしてもと言うなら、690-700nmくらいなら省いて結構です(笑)
逆にUV 400nmは、多くの色素や蛍光がガンガン利用しているので省けません。。。

2. 蛍光タンパクの励起波長帯と発光波長帯、そして働き

以下は、昨年僕が調査したSPSの蛍光タンパクの吸収スペクトルと発光スペクトルです。
左の黒線が蛍光タンパクを励起する吸収スペクトル、色付きが発光スペクトルです。

SPSの蛍光タンパクの吸収スペクトルと発光スペクトル

* 1.023world SPS Color Report 2013 vol.1/vol.2 より

この調査により、単にサンゴの蛍光タンパクの発光スペクトルを知る事以外に、非常に多くの種の造礁サンゴで、UV 370nm/UV 400nm/Violet 420nmの波長に反応する蛍光タンパクCFP(Cyan Fluorescent Protein)を持ち合わせている事が判明しました。見た目も真っ青なスギノキブルーは勿論ですが、あまり視覚的に反映されているように見えないストロベリーやスパスラタでさえ、かなりのウェイトでこのシアン蛍光タンパクを持っていたのです。そしてこのことは、彼らが普段、如何に超浅場のサンゴ礁で多くの紫外線を浴びて生活してきたのかを、より明確に示唆しました。彼らは、蛍光タンパクを光合成の補助に用いる事以外に、紫外線から身を守る術として蛍光タンパクによる波長シフト(有害な短波長エネルギーを無害な長波長エネルギーへ変換すること)=紫外線バリアも駆使していた訳です。1998年のエルニーニョで白化から免れたサンゴの多くが蛍光タンパクを持っていた事からも、納得の結果となりました。

ちなみに、蛍光タンパクにはおおまかに以下のようなタイプがあります。

  • VFP(Violet Fluorescent Protein) バイオレット蛍光タンパク : UVで励起
  • BFP(Blue Fluorescent Protein) ブルー蛍光タンパク : UV~紫光で励起
  • CFP(Cyan Fluorescent Protein) シアン蛍光タンパク : UV~青光で励起
  • GFP(Green Fluorescent Protein) グリーン蛍光タンパク : 青光で励起
  • YFP(Yellow Fluorescent Protein) イエロー蛍光タンパク : 青~緑光で励起
  • RFP(Red Fluorescent Protein) レッド蛍光タンパク : 青~黄光で励起

サンゴが持つ蛍光タンパクで見ると、BFPやCFP等の短波長励起タイプほど浅場に多く生息し、YFPやRFPの長波長タイプほど深場に分布しています。これらのことは、海中に届いている波長分布からも想像に易いと思いますが、浅場ほど紫外線バリアの意味が強く、深場ほど光合成効率アップのための波長補完の意味が強いと考えられます。

3. 紫外線を利用する生体への模範的な製品作り

また、紫外線を利用するケースは光合成以外のシーンでも多く見られます。例えば、赤い果実やブルーベリーの紫のアントシアニン色素は、紫外線により合成が促進されます。また、爬虫類の仲間は体内でのビタミン合成に紫外線(UVB)を利用してしています。そのため、爬虫類向け照明を供給している各社は、本当の意味で生体に必要なスペクトルにこだわって製品を開発されています。中でもZooMed社のUVB蛍光灯は、UVB以外の可視光線域もフルスペクトルとなっており、その波長クオリティは本当に秀逸です。一見、UVBさえ入っていれば可視光線の部分なんて一般蛍光灯と同じでも良さそうなモノですし、実際そのような製品もある中、ZooMed社の製品には「爬虫類が本来浴びていたはずの太陽の恵みを当たり前に与えたい」と言う強いこだわりが感じられました。詳しくは、以前掲載した各社UVB蛍光灯の測定データもご参考ください。

爬虫類用UVB蛍光灯スペクトル

アクア各社の怠慢・・・だが探せば良いモノはある!

一方、アクアメーカーは、なぜ一般蛍光灯をそのまま流用してしまったのか。。。
なぜアクアに特化した独自の蛍光体ブレンドを開発しなかったのか。。。
すべてはコストが理由か? はたまたスキル不足か?
これだけの数のアクアメーカーが、揃いも揃ってなぜ同じ製品ばかり。。。

しかし、実はそれをわざわざ独自開発するまでも無かったのです。
知識さえあれば、調査さえしていれば、大手の製品群の中から有益なモノが見つけられたはずなのです。

例えばこれ↓

欠落の無い白色フラットスペクトル

前回のこばやし氏の自作T5照明で採用されていた白系バルブのスペクトルです。

  • 660nm前後は弱いがUV域を十分に含むNEC FL8D 昼光色
  • UV域は含まないが660nm前後を十分に含む東芝FL8N-EDL 昼白色

アクア向け照明の基本白色光としては、こんな理想的なバルブは他に無いでしょう。
一般白色蛍光灯に欠けているUV 400nm前後、シアン500nm前後、黄色570nm前後、赤640nm前後、等が全て含まれ、と言うかそもそもスペクトルがフラットな連続であり、可視光線に於いて欠落自体が存在しません。
このように、フルスペクトルの白色蛍光灯に必要な蛍光体は既に存在していた訳です。わざわざ開発しなくても、これさえ見つけていれば。。。

ちなみに、このようなフルスペクトルの蛍光灯になると、演色性もかなり向上します。

Ra99の蛍光灯の演色性グラフ グラフ引用元:TAISEI E&L.

緑と赤の波長が十分な事による黄色の再現性は勿論、そもそも黄色の波長自体が十分に含まれていてるため、すべてが高得点となっています。要するに、蛍光灯でも超高演色を突き詰めていくと、結局先述のようなフルスペクトルが必要になると言う訳です。ま、全部の色(波長)が入ってる訳ですから、当然と言えば当然ですが。逆に、3波長蛍光灯でRa95以上を叩き出すのは至難の業です。

蛍光灯の演色に関する結論:
可視光線の全ての波長を含むフルスペクトルでこそ、色は正しく見えるのです。

ちなみに、植物育成用蛍光灯も気になるところですが、実はこんなスペクトルでした。

植物育成用蛍光灯スペクトル

そう、一般蛍光灯に660nmを足しただけのモノでした(NEC FL8BR-HGの場合)
また、ATI AquablueSpecial 等の白系のアクアT5バルブも、一般白色蛍光灯とほとんど同じ波長構成のスペクトルになります。

既製T5バルブの存在を覆す、理想のバルブ構成とは?

と言う訳で、波長の欠落の無い理想的なフルスペクトル白系バルブと、前回ご紹介したプリンス電機のワイドバンドブルーを用いれば、最低限の構成でフルスペクトルT5照明が構築できます♪

波長合成に有意義で理想的なT5スペクトル

ほら、これらのバルブを組み合わせれば波長の欠落がありません♪

ん?
この構成は、、、もしや、、、
“太陽”の白チャンネルと、“深度”の青チャンネル

■水深3-5M 浅場向けT5構成 (フルスペKR93SP風)

  • 太陽の白チャンネル:NEC FL8D
  • 深度の青チャンネル:プリンス電機 FL8B

KR93SP風 浅場向けチャンネルパターン

基本は白と青を1:1のブレンドでOK。蛍光タンパクを強化するなら白1:青2も良し♪

■水深0-3M 超浅場向けT5構成 (フルスペKR93XP風)

  • 太陽の白チャンネル:東芝 FL8N-EDL
  • 深度の青チャンネル:プリンス電機 FL8B

KR93XP風 超浅場向けチャンネルパターン

基本は白と青を1:1のブレンドでOK。色素タンパクを極めるなら白2:青1も良し♪

このように、蛍光灯でもメタハラのようなフルスペクトルを構築することは可能な訳ですから、それって、メタハラと同じ飼い方がT5でも期待できるって事を意味しますよね(もちろん光量は必要ですが・・・)。ならば、ZEOvitのようなシビアな水質コントロールに頼らずとも、T5だけでも波長にシビアなサンゴの真の色揚げが可能になるかも知れません。。。

蛍光灯の波長に関する結論:
蛍光灯でも波長の欠落の無いフルスペクトルは実現可能です。

アイデアの使用や商品化は、発案者の利用許諾を得てから!

あとは、どこかのアクアメーカーがこれらの蛍光体を使って必要なサイズのT5バルブを供給するだけです。興味があるメーカーさんは、発案者であるこばやし氏にご相談ください。
尚、ネット上のアイデアには必ず発案者の著作権が存在しますので、くれぐれも無断で盗用したり、ましてや勝手に商品化して利益を搾取する事の無いよう注意しましょう。

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